#1    



そう、渦だ。

ただの渦じゃない。

運命の渦だ。

あんたは渦が生まれた瞬間を見た事があるか?

それこそすごい些細な事なんだ。

だけど渦はゆっくりと俺たちを飲み込んで、大きく膨らんでいく。

俺たちの周りの人たちを巻き込んでいく。

愛しくて愛しくて仕方なく思う、大切な人たちすら

 

俺がはじめてアイツとしゃべったのは入学式の日。

アイツは何食わぬ顔で俺たちの仲間に入り、

そして静かに渦を発して、まずは俺だけを上手にさらっていった。

渦に飲まれたことを知ったときには既にもう遅かった。

俺はもう既に、その中心に立っていたのだから。

 

どんな時も始まりは恐ろしく静かなんだ。

 

「ミズキ!!置いてくぞ」

渡部修二はチャリのベルをチリンと鳴らす。

「待てよバカ。俺は徒歩なんだぞ。と・ほ!!」

したたる汗をぬぐいながら、長い長い上り坂の遥か上方でチャリを押す修二に届くよう大声で叫ぶ。

午前中は夏季の課外授業があったので学校に行った。

だから今、学校駅に行くには避けては通れない心臓破りの坂に居る。

「じゃあ後ろに乗る?」

「やだよ。オメエの運転するチャリなんてアブネエもん。」

「んだよそれ〜。」

半笑いしているらしい修二の声が蝉の声と共に響く。

それにしても今年のは夏は冷夏の筈なのにどうして今日はこんなに暑いんだよ。

ありえね〜。

いい加減歩く事が面倒になってきた。

だけどこの夏はバイトをしていなかったのでバスに乗る事を考えるのを止めにしてやっぱり歩く事にした。

学生にはバス代すらも大出費なのだ。

「ミズキ、早く!」

せかす修二がひたすらウザイ。

「早くっつったって・・・。」

気分はもうシンドイのレベルを超え始めている。

「この坂を上りきったらチャリ交換ね。」

「マジ?!」

とたんにやる気が出てきた。情けない。

 

事の発端は修二の近所に新しくできたゲーセンに二人で行こうと誘ったことだった。

そしたら修二は、ついでに俺の家に泊まれと誘ってくれた。

そんなわけで俺は迷わずイエスと言った。

遠慮は禁物。それは俺の座右の銘だ。たのむから迷惑とか言わないでくれよ!!俺の人生観なんだから。

そんなわけで今に至る。

 

「そうそう。ミズキ、何食いたい?」

「お前が作んの?」

「もちろん」

「じゃあカレーがいいなぁ。」

駅に着いた。チャリを屋内駐輪場に停める。駐輪場の中はやたらと声にエコーがかかってなんだか気分がよかった。

あややを歌いたい、なんて言ったら修二に笑ってケツを蹴られた。

音痴はカラオケだけにしろ。だとよ。

泣いていい?

 

途中駅ビルによって服を見た。修二はターバンを一点買っていた。

なにやら今年流行るらしい。

俺の財布には見えない希望しか詰まっていなかったので、

香水売り場で気に入ったものを一吹きティッシュに染み込ませて小分けビニールに入れた。

ついでに一番気に入ったグッチを手首につけておいた。

 

電車に5分くらい乗った。M駅の隣のK駅で降りた。

 

修二の家はK駅から歩いて10分の豪勢な一軒屋だった。

「ここだよ。・・・つーかミズキ、お前臭くない?」

「バカ。これはアレだ。モテる男のふぇろもんの香りだ。

つーかオメエ、ターバンってありえねえだろ。インド人だろ。カレー臭いだろうよ。」

修二の家は庭もべらぼうに広かった。

・・・だけど勿体無い事に、庭に植えた草木は隅から隅まで枯れていた。

修二の家の人って面倒臭がりなのか?

「いまどきは日本人もターバン巻くの。ベルトとかストールだけじゃないの。それにカレー臭くていいじゃん。」

ガチャリ。修二は家の鍵を開ける。

鍵は外国製のたいそう立派な代物だった。

金持ちだ。絶対コイツん家、超金持ちだ。

「何で。」

「さっきカレーが食べたいって言ったの誰。」

ハイ、俺です。

「どーしよっかなー。作るの止めちゃおっかな〜・・・」

「修二君、カレーの匂いってとっても素敵だよね。」

「よろしい。」

修二は腹黒い笑みを浮かべてこっちを振り向いた。

「入っていいよ。」

「おう。」

修二に続いてビビリながら家の中に入った。

こんな金持ちの家に入るのは初めてだ・・・。

俺が躊躇しているうちに修二は玄関にリュックと買い物袋を投げ出し、乱暴に靴を脱いでさっさと中に入ってしまった。

「何してんの。ミズキ。誰もいないから楽にしてろよ。」

「親御さんは?」

「海外。だから気軽に。な。」

「お、おうよ」

とりあえず、靴をそろえながら脱いで中に入った。

 

修二はだだっぴろいフローリング張りのリビングにあるでっかいソファに俺を座らせた。

天井にある吹き抜けから差してくる光が気持ちよかった。

「さっさと着替えてゲーセン行こう。」

修二はYシャツを脱ぎ、華奢な上半身を丸出しにして言った。

「見せんなよ!」

「見んなよ。」

 

その後は少ない全財産を使い切るほどゲーセンでゲームをしまくった。

修二との勝負は音ゲーで見事に全敗、格ゲーで見事に全勝をあげた。

帰り道、

「ミズキ、音痴だから音ゲー弱いんだよ。」

「修二、うんち(運動音痴)だから格ゲー弱いんだよ。」

二人のバトルは止む事は無かった。

ここまでが普通の高校生である俺の生活。

俺の生活が崩れたのはこれからの事。

 

そう、渦に巻き込まれていた事に気づいてしまったから。


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