「春。今日さ、カラオケ行かね?」

廊下ですれ違った春に肩を置く。

「ごめん。今からカノジョとデートなんだ。」

誰とだよ。

そう思ったけど口には出さなかった。

一組をチラリと見る。

姫路さんは課外授業のプリントを集中して解いていた。

・・・春が浮気してるなんて知ったら彼女はどう思うんだろ・・・

「ムカツク」

修二はボソリとつぶやいた。

「模試近いし勉強でもしよっか。」

二人でテンション急降下。

教室には亜紀だけがポツンと残っていてウォークマンを聞きながら英単語を練習していた。

「なあ亜紀。」

「何?」

奴は手を止めずに鬼速で紙に単語を書いている。

そんなんで覚えられんのかよ・・・

「お前にもしも奇跡的にカレシができて、その悪趣味なカレシが当然っちゃあ当然だけど浮気してたらどうする?」

「殴る。つーか嬲り殺す。」

「やっぱ?だよねー。フツーそうだよなぁ。」

亜紀のひとつ前の席の椅子に腰掛ける。

修二は俺の隣の席に腰掛けた。

「ミズキを。」

「俺かよぉぉぉぉ!」

「何が奇跡だよ。何が当然なんだよ!馬鹿にすんのも大概にしてよ!」

亜紀はイヤホンを取り小声で叫んだ。

「だって事実じゃんかよ!」

「うるせーよ!」

「お前、好きな人居ないの?」

耳打ちする。

「居ない。」

即答

「ダメジャン!恋すらしてねぇくせに!やっぱできたら奇跡だわ。」

亜紀はため息をつく。

「・・・結局何が言いたいんスか?」

そうだった。

「春の奴、浮気してるらしいんだ。アイツのカノジョは思ってんのかなーって思ってさ。参考になんねーけど仮にも女だからオマエに聞いてみた。」

「・・・やっぱ殴る・・・」

亜紀はひざの上に置いたこぶしをギリギリと音がするくらい硬く握り締めていた。

修二は疲れているらしくすやすやと気持ちよさそうに眠っていた。

「浮気ねぇ。そんなことされる奴の気持ちなんかわかんないよ。」

「オマエはカレシすらできねぇもんな。」

「キィッ!」

亜紀は俺に向かってイーって顔をする。負け犬の遠吠え。

「それもそうがけどさ。フツー付き合ってるんならさ、その人だけがすごく好きで一番だから一緒に居るんじゃん。

なのに他の子とも付き合っちゃうなんて欲張りだよ。」

「前々から思ってたんだけど亜紀って・・・」

「なに?」

おばさんクサっ!!

「だからきっとこんな奴なんかと別れてやる〜!って思うよ。ソッコーで。」

「でもさあ。もし相手の事がホントに好きなら別れられると思うか?」

「それはそん時になんなきゃわかんないよ。」

確かにな。

俺も亜紀も未知に近い世界だし。

俺?俺は付き合っても捨てられるタイプだから。浮気なんてしてる暇なんて無いんだ。

「ミズキ・・・」

修二がけだるそうに机から起き上がり、伸びをする。

「人の心配する暇があるなら自分の心配しろよ。」

ウッセェよ!!

 

結局その後、模試の勉強にも飽きたので三人でカラオケに行った。

え?女子が居るのにいいのかだって?

心配するな。亜紀は戸籍の上でしか女性でないんだ。

「2時間・・・DAMで。」

「かしこまりました」

修二が受付を済ませている間の事だった。

「ミズキ、アレ見てみ。」

「ん?・・・あ・・・」

俺の目はそれに吸い込まれそうになった。

なんと、店の外で春君と姫路さんと昨日見た女の子が言い争っているではないか。

うっわぁ。めちゃめちゃ気まずそうじゃん。

「あちゃ〜見つかっちゃったんだ。」

「ミズキ・・・うれしそうだねぇ。」

「亜紀こそ。」

「「いひひひひひひ」」

他人の不幸こそ最高のエンターテイメント。人間って嫌な生き物だ。

ああ、笑いが止まんねぇ。いひひひひ。

姫路さんは泣きながら走り去ってしまった。

春君、一世一代の大ピンチ!まあせいぜい苦しめ。

「あ〜あ。馬鹿だなぁー。浮気相手なら市外でデートすりゃあいいのに。」

「たしかにな。でも市外ってデートスポット全っ然無ぇよなぁ・・・。」

あ、まさかアイツらに亜紀といるところ見られてないよな・・・。

別に亜紀とカラオケに行くのはかまわないけど、それを他人に言うのはまた別の問題だ。

なにせ他人の目はとても恐ろしい物だから。一般人にもスキャンダルってのは存在するのだ。

まあ俺は一般人の中でも芸能人みたいなもんだし。人気者はつらいよ。

 

翌日

春は学校を休んだ。

昼休み1組をちょこっと覗いてみた。姫路さんは友達に慰めてもらいながらも暗い顔をして弁当を食べていた。

その次の日だ。

春の様子がおかしくなったのは。

 

そのまた翌日

珍しく早い電車に乗った俺は初めて教室に一番乗りした。

明後日はイブと同時に冬休み。

おそらく今年最初で最後の一番乗りだ。明日は遅刻ギリギリまで寝るつもりだから。

「うわっ珍しい。今日は雪が降るかもな。」

二番は修二。

「ところでミズキ。カノジョはできた?」

「嫌な事聞くんじゃねーよ。」

机に突っ伏して曇った空を見た。

雲が割れて少し光が差している。

ああ・・・キリスト様・・・せめてクリスマスだけでも不幸な僕に幸せを分けてください・・・。

今年の俺は幸が薄かったな。アーメン。

「ところでオマエはカノジョ欲しくないの?」

視線を窓の外から部屋の中の修二に移した。

「今の俺には必要ないよ。きっと優しくしてあげらんないから。」

「へぇ〜オマエ、他校で超モテてんのに。勿体無い。」

ムカツクから言ってはいないが実際、「修二君が好きなの!」とか言って俺をフッタ奴もいる。

「つーかさ、そんなのって単なるバラメーターじゃん。居ればなんぼ・みたいな。そんなん嫌なんだよね。

付き合うんならむしろ、多少こっちにリスクがかかるくらいの人がいいな。

どんなに罵声を浴びても『俺はコイツを愛してる!!』って叫べちゃう・・・みたいな?

「いつも思ってるけどスゲェよな。オマエって。いろんな意味でさぁ。」

「そう?ありがと」

言うまでもないが断じて褒めているわけではない。

「でさ、『リスク』って亜紀みたいな奴?」

「うーん。山崎じゃまだ足りないよ。やっぱミズキくらいじゃなきゃ。」

奴はにっこりと笑う。

俺もつられてにっこり。

ってホモかよーーーー!!!

「えええええええーーー?!」

「ヒクなよ。例えばの話だよ。つーか俺は年上限定だし。」

「・・・ですよねぇ〜。」

お前に言われると冗談が冗談に聞こえねーんだよ。

肝っ玉で冒険家の修二君なら有り得ない話でもない。むしろしっくりきそう・・・。

「・・・まぁオマエの気持ちも分かんないわけじゃないけどな。」

「ナルシスト・・・」

「ああナルシストだよ!なんか悪ぃかクソがッ!つーかそこじゃネェ!」

「安心して。死んでもミズキには惚れないから。」

「うっせぇ!」

修二は吹きだして笑ってやがる。何がおかしいんだ!!言ってみろ!!

「・・・好きになんならリスクがあるほうがいいって話だよ。バカ。付き合うかどうかは別だけど。」

ふと姉貴との事を思い出した。

何だかんだ言って俺も冒険家だ。

あの頃、姉貴と俺を阻む壁の存在すらも俺にとっては何でもなかった。それにドキドキするくらいだったんだ。

ああ。愚か者。そんな自分が確かに存在したことを思い出すと「イー」って叫びたくなる。

「イー!!」

「何言ってんの?ミズキ・・・。」

実際に叫んでみた。

「ハア。春は姫路さんのことどう思ってんだろなー。」

「だからさぁ。んなこと考えてないで自分のこと考えなよ。『イー』とか言っっちゃってかなり重傷じゃん。」

「ハイハイわかりました〜。」

気づけば教室にはいつものメンバーが勢ぞろいしていた。

ただし、春の姿はどこにもなかった。

 

奴は運命の渦に巻き込まれていたんだ。