飛ぶように日は過ぎていった。
12月24日
クリスマス・イブ。
『影』との約束の日。
奴は今日の日を姫路さんの家で過ごすという。
俺たちは亜紀の家で過ごすことになった。
天と地の差。
亜紀の家はK団地近くの大通りにつながる細い道を通り、小さなラブホテルの先にあった。
一面の冬の芋畑に竹やぶ。
県庁所在地に有るくせにものすごい田舎だ。・・・俺んちには負けるけど。
「ただいまー」
亜紀は靴をポイポイと脱ぐ。
「母ちゃん。今日友達来てっから部屋入んねーでな。」
「あいよー」
まさに田舎の家族。なかなかアットホームな雰囲気じゃないか。
「何スッペか」
「何でそんなに訛ってんだよ」
亜紀に突っ込む。
「音楽かけめーか?」
「少しは遠慮しろ!」
オーディオとMDを勝手にいじくる修二に突っ込む。
これだからこいつらと過ごすのは嫌だったんだ。
「でも音楽はかけよっか。」
「何聞く?」
亜紀が色の違うMD七枚を見せる。
「あやや〜」
「ねーよ!!」
結局皆で考えた末RIPSLIMEをかけた。受験勉強してるときに良く聴いてたな・・・。
真冬の常夏ベイベー。
買ってきたぶどうファンタを飲みながら外の景色を見る。
雲ひとつない田舎の青空。
きっと今夜の星は綺麗だ。
あの『影』は今頃どうしているのだろう。
「ちぇ。結局お前らとすごす事になっちまった。」
俺はボソリとつぶやく。
それを聞いて修二は微笑んだ。
「山崎の言うとおりになったね。」
「まーな。」
最近亜紀の言うとおりになることが多い。
不思議。それにちょっと癪だ。
「亜紀〜どっちがカレシ〜?」
亜紀のおふくろさんの声。
のどを通ったファンタがまた戻ってきそうになる。
何です?その不吉な二択は。
「どっちもちげーよ!」
亜紀が怒鳴った。
やっぱあったかい。
俺の家は姉貴の件以来、家族がぎくしゃくして、どこかよそよそしい。
まあ、俺が撒いた種なんだけど。
あんなに仲良く親と言い合えるなんて。ひたすら羨ましい。
でも。亜紀みたいな変なのが育つんだから相当変な家族なんだろうなぁ。
皆でわいわいやってるうちに夕方になった。
窓から赤紫の優しい日が差してくる。
「ここで修二君から皆にプレゼントでーす」
修二はバックから二つの包装された小箱を取り出し、
その片割れを俺に、もうひとつを亜紀に手渡した。
コイツ、金持ちだからかなり期待できるぞ!
「開けていい?」
「もちろん。」
期待に胸を膨らませながら丁寧に包装紙をはがし、箱のふたを開けた。
「あり?」
そこに入っていたのはケータイのメモリーカード一枚だけだった。
「何コレ」
「SDカード?」
「とにかく入れてみて」
俺と亜紀は修二の言われるがまま、ケータイにカードをせっとして中に入っているアプリを開いた。
「プレゼントって・・・これ?」
亜紀は半ば呆れ顔で修二を見た。
「そう♪」
「『影』探索アプリ・影時君・・・なんだこりゃ。つーか影時君って誰だよ〜・・・」
俺は額に手を当てため息。
「これが影レーダーになるんだ。便利でしょ?」
ニコニコ笑う修二。
俺と亜紀は脱力。
「まぁ。修二らしいっちゃぁ修二らしいなぁ。あ、あんがとな?」
「何?ミズキ、嬉しくないの?」
修二はしゅんとする。
「うん。」
俺は即答した。
それにしてもだから近頃の修二はあんなに眠そうだったのか。
何だかんだ言ってこれも俺たちのために作ってくれたんだし感謝しなきゃだなぁ。
口には出さないけどな。
「あたし、来年になっても影師続けるから。」
亜紀はケータイを握り締めて震えた声で言った。
「二人の足手まといになんないように頑張る。役立つ能力だって手に入れるから。お願い。続けさせて」
「亜紀・・・」
俺たちは亜紀が自分が役に立っていないのではと気に病んでいるのを知っていた。
「んな事より自分の顔のことでも心配しろ。」
俺は笑う。亜紀は能力が無くても俺たちには無くてはならないお笑い要素だ。な、そうだろ?
「影師は三人組だろ?」
修二が亜紀の頭をなでる。
亜紀の顔が安心で少しほころんだ。
「ありがとう。」
「さて。そろそろ『影』との約束の時間だし、行きましょっか」
修二はゆっくりと立ち上がる。
亜紀は菓子を片付けミニコンの電源を切る。
俺は空を見た。
満面の星空。
思ったとおり星が綺麗な夜だ。
俺たちは自然と黙り込んだ。
アイツは。あの『影』は一体今、どんな気持ちなのかな。
大好きな人に何て別れを告げるんだろ・・・
もし俺がアイツなら
好き
大好き
愛してる
さよなら
そんな単純な言葉をありきたりに並べただけじゃきっとあらわしきれない。
なぜなら永遠の別れを告げなければならないからだ。
くもの巣に引っかかったみたく、もがけばもがくほど、
言葉を重ねれば重ねるほど、
絡まって、気持ちは溢れて、苦しいむんだ。きっと。
K団地の東公園のベンチに一人、春の姿のまま、奴は座っていた。
『影』の瞳はまっすぐだった。
春なんかより、ずっとずっと強い目。
模試許されるならこいつが春の代わりに春になってもいいくらいだ。
コイツなら姫路さんだけをまっすぐに見て、愛してくれる。
だけど・・・
「お別れは言ったか?」
『影』は頷く。
「もう、思い起こすことはない。」
「なぁ、『影』は悪いなんて、『影』は殺すべきだなんて・・・。おかしくねーか?」
銃口を押さえながら俺はつぶやいた。
「ミズキ?」
修二の表情が曇る。
「コイツ、フツーに春よりいい奴だし生かしてやってもいいんじゃね?」
沈黙。
「あたしも・・・殺す必要は無いと思うんだ。ね、渡部っち・・・」
「亜紀まで・・・」
修二は困ったように俺たちの顔を見比べた。
「だめだ」
皆一斉に『影』を見る。
「俺は『影』だ。影師は『影』を殺す。例外なんて。どこにもない」
泣きそうな顔をしてやつは笑った。
そして俺の銃を胸元に当てる。
「・・・あんた、いい奴だから・・・きっと神様が認めてくれる。絶対生まれ変われるよ。」
亜紀が腕で涙を拭きながら言った。
『影』を生むのは人なのに・・・人が『影』を殺めるなんて・・・酷すぎないか?
確かにムカツク『影』も居るけれど・・・どんな時にも例外はあるもんだ・・・。
・・・なのに・・・
「あの子にも、君たちにも・・・会えてよかった。ありがと・・・」
「お、おい!!」
バンッ
奴は自らの俺の銃の引き金を引いた。
春の身体が俺にかぶさってくるように倒れてくる。
「ごめん」
すやすやと眠る春を俺はしばらくの間きつく抱きしめていた。
「あ。ミズキ・・・ケータイ・・・」
修二に言われて気づく。電話みたいだ。
「・・・もしもし」
お袋からだ。
その知らせを聞いて俺の心臓は跳ね上がった。
「・・・どうした?」
修二は心配そうに俺を見る。
「姉貴の子供が生まれた。」
「・・・まさか・・・」
俺は黙って頷く。
「赤いピストルの弾を握ってたらしい。」
「うそ・・・」
亜紀は顔を上げた。
「うわぁぁぁ!!」
俺たちは歓喜のあまりに抱き合った。
後日。
「そんなわけで。色々ありまして、付き合うことになりました。」
元に戻った春と姫路さんは破局。
しかし姫路さんは迷わずにある男のもとへと向かった。
そう。渡部修二。
「この!てめぇ!!彼女はいらねーとか言ってたべよ!」
俺は修二の髪を引っ張る。
「それとこれとは別だよ!」
「一緒だ〜〜〜!」
俺たちの生活は相変わらずだ。
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