渦は人を巻き込んで大きく膨らむ
膨らんだ渦はまた人を巻き込んでく
今回は俺に課された二つの選択のはなし。
ついに俺にハードな影師ライフから開放されるチャンスが訪れたのだ!
だけど、そのチャンスはあまりにも不本意な形で俺に託されて・・・
#5 さよなら
2月。
そろそろこのクラスともお別れだ。
何打かんだいってイイ奴ばっかだったから少し寂しい気もする。
それとこの学校が始まって以来の大事件が起きた。
うちのクラスの山下美咲がキャバ嬢のバイトをしていた事が発覚して一ヶ月の自宅謹慎をくらったのだ。
山下は顔もスタイルもいい、クラス一の美女だ。
・・・なのに居なくなっちまったから正直物寂しい。
花が無いんだ。
鼻くそ(山崎亜紀)ならいるんだけど。
ちなみに俺は今はフリー。
今年は何人の女にフラれたのか・・・数え切れない。グスン。
「大事な話?」
「うん。だから今度の土曜、うちに来てくれないかな。」
マックでの定例会議。
亜紀は今ではあんまり頼む人も居ないパンケーキをひとつつまむ。
奴はダイエットを始めて2週間目に突入する。
なにやら5キロもやせたらしい。
それはそれは。リバウンド決定だな。
「そんなん今言えばいいじゃん。」
栄養不足で不機嫌な亜紀は口を尖らせ、まずそうな顔をしてパンケーキをまたひとつつまむ。
奴曰くまずそうに食べると食欲がなくなるらしいんだ。
そんなにまでスリムなボディが欲しいのか?
「模試も近いし〜。暇なんかないよ。」
亜紀は更に言う。
奴はここ数ヶ月、小池にいじめられていた。
成績を人の価値として見る小池にとって馬鹿な亜紀はカスに過ぎないのだ。
だから亜紀は今回の模試に意気込んでいた。小池に認められたい・って。
「なんならそんとき数学教えてあげるよ?」
修二は手を組んでにっこりと笑う。
「修二さん。よろしくお願いします。」
亜紀はその腕をガシリと掴む。
この変わり身の早さは一体誰からうつされたのだろうか。
・・・まさか・・・俺?!
「俺も行くよ。」
すかさず言う。
「当たり前だろ。」
修二は突然さめた顔をして即答。
あ、当たり前?!
俺は強制参加なんだ・・・。
「じゃーねー」
「バイバイ」
「また明日ー」
外は雨が降っていた。
ビニール傘を差す。
修二と亜紀が見えなくなるまで見た後。
ふと向かいの歩道を見た。
ぽつんと人影が見える。
目が合った。
「山下・・・」
「田村君?」
動けなくなった。
我に返った俺は車が走っていない事を確認して車道を走って渡った。
ズボンのすそに泥がハネたけどそんな事は気にしないで走った。
「学校はどう?」
並んで歩く二つのビニール傘。
「フツーだよ。山下はいつも何してんの?」
「バイト。」
「何の仕事してんの?」
山下は黙り込んでその大きな茶色の目で俺の目を見つめる。
そして
「ウリ」
小さな声で言った。
それ以上、俺は何も言い返せなかった。
何もいえないまま二人は別れを告げて散った。
彼女は俺になんて言葉をかけて欲しかったんだろう。
また会いたい。そう強く願った。
今日は珍しく『影』と戦わずに一日が終わった。
まあいつも働き通しだしこんな日があっても悪くはない。
そうそう。このごろ一日が酷く短く感じるんだ。
中二の入院してた頃は起きてから寝るまでがあんなに長く感じたのに。
やっぱり楽しいからなのかな?・・・今の生活が。
仲間が居て、限りなく死に近いフツーじゃない日々が。
・・・・そ、それは有り得ない・・・。
夜中の二時にケータイが鳴った。
「んだよ・・・こんな時間に・・・馬鹿じゃねーの?」
修二からだった。
俺はパジャマの上にジャケットを羽織って急いで外へ飛び出した。
「よっミズキ。」
終電もとっくに過ぎてるのに。
修二は俺ん家の近くのコンビニ前にポツンと立っていた。
「どーしたんだよ。こんな遅くに・・・。」
「終電に乗った」
「ずっとここに居たの?」
「まあな。」
奴は頷く。
「なんかミズキに無性に会いたくなって。」
「いやいや。意味わかんねーよ」
修二の笑顔は酷く悲しそうだった。
一応は気になったがあえて何も聞かなかった。
俺にも聞かれたくないことは山ほどあるから。
「うち来る?」
俺は手を擦り合わせて息を吹く。真っ白な息が星空に昇る前に消える。
「いいの?」
「前にお前んちに泊めてもらったし。」
修二は頭を下げた。
「あんがと。」
「それにしてもこーんな遅くに呼び出すんじゃねーよ。お前は寂しがり屋の彼女か?」
「ごめん」
修二の表情に少し光が差した。
二月の終わりの少し温かい風が吹いた。
星が綺麗に光っていた。
こんなロマンチックな風景なら女の子と歩きたかったな・・・。
家に帰っていつもなら聞かないはずのラジオのニュースを付けた。
今考えてみるとそれは運命だったのかもしれない。
俺はまた更に大きな渦に巻き込まれたのだ。
「”T県Y村で集団自殺”4人死亡、1人重体”」
げ・・・県内。
その気になれば電車ですぐにいける。
「たしかY村って山下さんが住んでたんじゃ・・・」
「村民?!」
山下って村から来てるんだ・・・。
あんなかわいくてオシャレなのに・・・。
「あー眠くなってきた。頼むからあんま暴れんなよ。」
ひとつの布団にふたり入ったからギュウギュウ詰めだ。
おそらく明日の朝にはどちらかが布団から追い出されるだろう。
明け方、ケータイからバンプのアルエがやかましく鳴った。
その電話を受けたとき、再び渦が急速に流れを速めたのだ。