やかましく鳴るショボイメロディーだけのアルエ。
ったく。こんな早くに誰だよ。
シカトしようと思って放置した。
しかしアルエは止む気配がない。
仕方なくケータイを取ろうとしたそのとき。
「もひもひー」
なんと、寝ぼけ眼の修二に奪われてしまった。
「オイ、おまっ!修二っ!!」
『渡部君?』
女の声。声からして亜紀ではない。
修二の事を知ってるってことは・・・クラスの奴か?
『あ、あたし・・・あの・・・山下。山下美咲』
「山下?!」
跳ねるように飛び起き、修二からケータイを奪った。
そーいや昨日、ケー番交換したんだっけ・・・。
血の巡りが早くなっていく。
「どーしたんだよ。こんな早くに・・・」
『今、M市の・・・中央病院に居て・・・』
山下の声は震えていた。
「事故んでも遭ったのか?」
『ちがう・・・』
「じゃあ何!」
声が大きくなる。
山下の身に何かあったのかもしれない。
『自殺した・・・』
全身の力が抜け、ケータイは手からするりとすべり落ちた。
自殺・・・昨日自殺した生き残ったのなんて・・・さっきのラジオの・・・
『田村君・・・会いたい・・・』
「わかった。面会はいつから?」
『10時・・・』
「気をつけてな」
かける言葉も見つからず意味の解らない言葉をかけちまった。
バカだなぁ・・・俺。
ケータイを切ってため息。
二度寝する気も起きなかったので私服に着替えて少しぼうっとした。
修二はマジで寝ぼけていたらしくすやすやと眠っている。
日の出を見た。朝方の紫、オレンジ、青がすごく綺麗だった。
こんなに早く起きたのは結構久しぶりだ。
早起きは三文の得。
「そーゆー訳だから今日は学校休むわ。W山崎によろしく。」
「わかった。昨日はゴメン。」
六時を過ぎたころ、俺たちは朝飯を食わずに駅までの道を歩いていた。
修二は一度家に戻るらしい。
「じゃーな。もう来んなよ。」
「二度と行かねーよ。こんな田舎。」
修二の表情が再び曇る。
「ミズキ・・・」
「何?」
「・・・なんでもない。土曜、絶対来い!」
「わーったわーった。じゃぁな。」
修二は電車に乗って見えなくなってしまった。
さて、10時まで何をしよっかな。
田舎は何もないから嫌だ。
時々修二と亜紀ん家が羨ましくなる。
近所にツタヤもあるし駅ビルもデカイし・・・
それに・・・修二には自由気ままな一人暮らし。亜紀にはアットホームな環境。
俺が欲しいものを持っている。
なるだけあの家には戻りたくない。あんな息の詰まるところに居たら窒息死しそうだ。
立ち読みでもして時間をつぶそう・・・
俺はコンビニへ向かった。
早起きなんてしても何もすることがない。
三文なんて小銭稼いでもしょうがないんだ。
全国の学生たちよ。金が欲しけりゃバイトしろ。バイト。
思った以上にコンビにでの4時間はしんどかった。
ジャンプ、エロ本、サンデー、エロ本、ファッション雑誌、エロ本・・・
俺としたことがエロ本ばっか読んでしまった。
時間は恐ろしい。
電車に揺られてM市。
山下のいる病院へと向かった。
「昨日入院した山下さんは・・・」
「208号室です。」
カンジ悪い看護婦の指した部屋へ向かう。
個室だ。
きっと金持ちなんだな・・・
「・・・山下ー。起きてっかー?」
「田村君?」
個室のベッドにポツンと乗せられている、どっかの人形のように目を丸くした山下は俺の顔をまじまじと見た。
どうやら先客は居ないようだ。
「何だよ。来ちゃ悪かったのかよ。」
「ううん。本当に来てくれたんだ・・・。ありがと。」
「体調は?」
俺はパイプ椅子に腰掛け、見舞いに家からかっぱらってきたリンゴをむき始めた。
「大丈夫。」
指から血がでたのでリンゴをむくのをやめた。
「・・・食べる?」
半分も剥けてない、しかも俺の血がかかったリンゴを山下に差し出す。
「いらない。」
「・・・慣れない事するもんじゃないよな。」
俺は苦笑いしてリンゴをかじる。
アレ?俺、どうしてリンゴを持ってきたんだっけ。
次はみかんを持っていこう。
「ねえ、田村君・・・。」
「ん?」
山下は思い詰めたような顔をして俺を見る。・・・スベったかな?
いつもより一層青白い肌と茶色の丸い目が印象的だった。
「昨日、どうして渡部君がケータイに出たの?」
「修二が俺ん家に泊まってたんだ。」
山下は口元をゆるませる。
「仲良いんだね。」
「まーな。」
「田村君・・・」
彼女は甘い瞳で俺を見つめる。
どうしよう。
すっげぇドキドキする・・・。
「しばらく一緒に居て・・・」
柔らかい手で袖を掴まれて小さな顔を胸に埋められた。
ああ・・・悪い気分じゃねぇな。・・・つーか超幸せ・・・
だけど・・・
身動きが取れない!
何か言わねぇと!
ヘンな使命感に支配される。
「あ、そーいや親御さんは?」
地雷を踏んじまったのかもしれない。
言ってから気づいた。
「来てない。電話は来たんだけどすっごい怒ってた。我が家の恥だってさ。」
ひどいでしょ?なんて言いながら以外にもあっさりと話してくれた。とりあえずセーフ。
しばらくの間、くだらない話をたくさんした。
くだらない話でも山下の口から出される言葉のひとつひとつがきらきらと輝いていた。
なんてキザすぎるよな。
病院が夕日のオレンジに染められていく。
「俺、そろそろ帰るね。」
「田村君・・・」
「ミズキでいいよ。」
「ミズキ・・・また来てね・・・」
「もちろん」
俺たちは何かにひかれ合ったかのように短めのキスをした。
お互いがお互いの事を意識しあっていたのだ。
明日も絶対に行こう。
俺は久々に本気で愛することのできる相手を見つけることができたのだ。
ああ。もう無理だと思ってたのに・・・。
きっと神様が・・・毎日『影』と戦っている俺にご褒美をくれたんだ。
外にはもう星が出ていた。
最近晴れの日が多くて清々しい。
まあ冬だからな。
飛んでいきそうな足を地に着けて俺は空を眺めた。
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