翌日、クラスは大騒ぎになっていた。
もちろん、美咲の自殺も十分に波紋を呼んでいたのだが更なる事件が起きたのだ。
「修二は?」
その日は遅刻寸前だった。
駆け込み乗車の上に駆け込み入室をした俺に春は、
「眞島ん所」
とぶっきらぼうに伝えた。
「何かしたの?あいつ」
担任に呼び出されるなんて要領がよく滅多にへまをしない修二にしては珍しい。
「その逆。されたの」
「は?」
意味が解らなかった。
「え?されたって何?セクハラ?」
「バカちげーよ。机に花瓶と葬式花が置かれてたんだってさ。」
春はいやらしく笑う。なんだか嬉しそうだ。
今に始まった事じゃぁないが奴と修二は折り合いが悪いのだ。
「花瓶と花ぁ〜〜?!」
そんなんベタ過ぎて話にならないようなイジメだ。
まあやられて受ける精神的なダメージは相当高いだろうけど。
やった奴はどうしようもねぇバカに違いない。
辺りを見回すとクラス全体が騒がしい事に気づいた。
俺は教師の居ない教室で堂々と携帯を広げ、画面を隠しながら亜紀へメールを打った。
<犯人、誰だと思う?>
すぐに返事が来た。
<山崎春>
奴の気持ちはなんとなく分かる。だけど・・・
<春はもっと頭よくて陰湿な事を考えっぞ>
次の返事は来るまでに少し時間がかかった。
<ミズキは誰だと思ってんの?>
俺は・・・
<小池じゃねーの?>
いかにもそんなことやりそうだし、何よりこの間の中間テストじゃあ修二に一番を取られちまった。
妬いてやったのかもしんない。
<ありえねーよ!>
<何で>
<小池ちゃんは渡部っちのことが好きなの!>
ええええええええええ!!!
叫びそうになって慌てて口を押さえた。
<オタクなのに?!>
<オタクが恋しちゃいけないなんて決まりどこにあんの!>
結局1,2時間目はクラス全員が一人ずつ眞島と面談して潰れちまった。
修二は一度も姿を現さなかった。
相当ショックだったのか?
俺たちは修二の登場をただひたすら待つことにした。
「ゴメン遅れた」
修二は午後になってやっと教室に現れた。
奴は入るなりクラス全員にドバっと囲まれた。
「大丈夫?」
「俺は別に平気だったんだけど・・・親まで呼び出されて・・」
そこまで言って修二は慌てて口をつむいだ。
「・・・なんでも無い」
奴の親は海外に居るはず。帰ってきたのか?
奴はうな垂れて自分の席に腰を下ろした。
「もう最後なのに・・・」
ポツリとさびしそうにつぶやく修二の声が聞こえた。
やっぱ傷ついてんだ・・・当たり前か。
落ち込む修二には悪いけどさっさと学校を出て帰りに美咲の居る病院に寄った。
調子も良好で、日曜には退院できるらしい。
「今日さあ、大変だったんだぜ。修二の机に花瓶と葬式花が乗せてあって」
「えー最悪じゃん。それっん・・・」
美咲は笑顔を崩し、苦しそうに咳き込んだ。
「大丈夫?今お茶汲んでくっから待ってて」
「ありがと・・・」
俺はリュックを置いて給湯室へと向かった。
「機械の仕組みわかんなくて時間かかっちゃった。ごめんな。」
お茶をふたつポツンと置く。
「全然大丈夫。ありがとね。あのさ・・・ミズキ・・・」
「ん?」
美咲は下を向く。
「自殺・・・したくなかったんだ・・・。ウリの客にやろうって言われて・・・断ったんだけど・・・
無理やりワゴンの中に押し込められて・・・。死ぬ気で扉をこじ開けて・・・命からがら逃げてきたの・・・。」
「美咲・・・」
美咲は泣いていた。
俺はゆっくりと彼女を抱き寄せた。
8時過ぎまで話した。
流石にカレシ(かどうかは微妙なんだけど・・・)でもこれ以上居たら迷惑だと思ったので帰ることにした。
帰り道、リュックの中のケータイが鳴った。
「あれ?」
病院に入る前に電源切ってたはずなのに・・・
修二の作った『影』レーダーアプリ・『影時くん』だった。
<M駅に『影』を探知>
マジかよ!
ちなみに今も修二が使っている初代レーダーよりは性能がアップしている(例えばGPS昨日が使えたり)ものの
未だ『影』が出現してから探知するまでに時間がかかったり、反応が曖昧だったりと問題も多い。
だからそう、遅すぎたのだ。
俺はチャリでM駅に向かった。
駅員についていた『影』はあっさりと俺に倒された。
だけど、もう事件が起きた後だったんだ。
ケータイが鳴った。
修二からだった。
「もしもし?」
『中央病院に来い!急げ!』
中央病院には美咲が入院している・・・まさか
「美咲になんかあったのか?!」
『バカ!』
修二の声は震えている。
『山崎が!亜紀が階段から・・・突き落とされた』
「え・・・」
衝撃で頭が真っ白になった。
『『影』に疲れた小池のやられたらしい』
「その『影』なら・・・多分・・・今俺が倒した」
小池に憑いた後に駅員に乗り換えたんだろう。
「・・・わかった。すぐ行く。待ってろ」
ケータイを切ってすぐにタクシーを呼んだ。
「どこ行きます?」
「中央病院。急いで!ダチが階段から落ちたんだ」
俺は叫ぶように言った。
今は金なんてどうでもいい。
とにかく亜紀に会いたい。
会って無事を確認したいんだ。
「亜紀っ大丈夫か!?」
「あ、ミズキ」
亜紀はロビーで週刊マガジンを読んでいた。
「えっ?お前何やってんの?ええっ?」
「魁!クロマティ高校読んでる」
「クロマティじゃねーよバカ!階段から落とされたんだろ?」
「ああ。それ」
「それじゃねーよ!」
「ホラ、ココ。骨折した」
亜紀は俺に包帯でぐるぐる巻きにされた右手の小指を見せる。
「小指かよ!」
「あん?!たかが小指でもされど小指じゃい!」
あー。まぁた今月も財政難だ。
いいかげんにしてくれよぉ。俺には貧乏神でもついてんのか?
「やっと来たか。」
缶コーヒーを三本抱えて修二はやってきた。
「お前ら今日は災難だったな。」
「まーな。まあ災難っていったら間違いだけど」
「は?」
修二はコーヒーを一口飲んでからまるでどうでもいい話かのようにサラリと言った。
「『影』のせいだから。今日の事件はどっちも」
「うそ・・・」
俺はドキリとする。
「マジ。今朝の、『影』に憑かれた良祐がやったんだ。」
「犯人知ってたのかよ!」
「うん。だって良祐、レーダーに引っかかってたし。ホントは・・・見た。」
「何で俺に言わないんだよ!」
「ミズキ・・・忙しそうだったから」
俺はうつむいた。
修二の話を聞かずに真っ先に美咲のところに行くなんて・・・俺は修二のダチ失格だ。
オマケに亜紀までこんな目にあわせちまうなんて・・・。
「山下さんも・・・うちらも・・・なんか最悪・・・。」
亜紀がポツリとつぶやいた。
美咲、修二、亜紀・・・なんだか俺の大切な人ばかりが不幸になってる。
やっぱり次は俺なのかな?
昼の修二の「最後なのに」って言葉がやけに引っかかったけど何も聞けずに俺は家に戻った。
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