「いいかミズキ。生まれたところを一気に叩くぞ」
修二が小声で言う。
「わーってる」
「ねーねーあたしは?あたしは?」
亜紀は俺たちの間に割り込む。
「応援でもしてろ」
「・・・ヘーイ・・・」
俺に言われて亜紀はシュンとした。
張り切ってた所悪いけどお前をかまってる暇なんてない。
今回は俺の問題だ。
今は駅前。警察の事情徴収が終わって俺と会う約束をしたのだ。
作戦はこうだ。
美咲の前で修二や亜紀が俺にやたらとベタベタする。
美咲の『影』はどうやら嫉妬心に反応するみたいで、それがマックスになった時に『影』が誕生する・・・らしい。
それを俺が一気に叩くんだ。
まぁ作戦は立ててみたものの・・・本当にそう上手く行くもんなのかな?
「なあ」
亜紀がトイレに行ってる間、俺は柱にもたれて、少し離れている修二に聞いた。
「何?」
「もし美咲の中に『影』のモトが居たらだよ?美咲がソイツの母親みてぇなもんじゃん。」
「うん」
「じゃあ父親は俺?」
「下らねぇよバカ!」
笑顔が無くとも修二の突っ込みは健在だった。
ただ、ちょっとばかり厳しいかも・・・。
「もし勘違いだったら・・・覚悟しとけ」
修二は黙って頷いた。
亜紀が少し長めのトイレから戻ってきてからしばらくが経った。
「ミズキー」
とびきりのオシャレをした美咲がやってきた。
彼女は俺の両脇に修二と亜紀がいるのを見て顔を濁らせる。
「あ、コイツら、どーしても美咲に会いたいってきかないからさ。Wデートってことで。な?」
「いいよ。心配してくれてありがと。よろしくね。」
亜紀と修二がワーワーと抗議の声を上げるのを尻目に俺は美咲の肩を抱いて歩き出した。
「お似合いだよ。渡部君。山崎さん」
俺はとびきりイヤミな顔をして二人に言った。
修二君。最後にして最悪の思い出。
「山下、調子はどう?」
「まあまあだよ」
彼女は修二に笑顔を振りまく。それは俺に与えるものとは違う、冷たい作り物の笑顔だった。
・・・嫉妬は一応・・・してるみたいだ。
確かに修二は女子に負けず劣らずの美少女(笑)だ。
だけど俺は決して男にはなびいたりしない。
どんな別嬪さんがやってきても。
少なくともその当時(今もな!)はそう思ってた。
信じてくれよ美咲!
「ところでどこ行くの?ダーリン」
亜紀の声が聞こえる。
「いつ俺がお前のダーリンになったんだよ」
修二の声が聞こえる。
「誰も渡部っちなんかに言ってない!あたしの未来のダーリンに言ったの!」
「誰だよ!」
修二が思わずツッコミを入れる。
「えっとぉ・・・塚本高史似の・・・唇が赤くて・・・優しい人!」
「うっわぁ・・・もうそこまで決めてんだ・・・」
修二君・ラストどん引き。まあ・・・ラストだといいんだけどね。
「美咲・・・後ろは気にすんなよ。」
「う、うん」
頼むから・・・何も起こらないでくれ・・・。
そう願いながら俺は一歩一歩を歩いていった。
俺たちは駅前の路地裏で一息していた。そろそろ別れの時間が迫っている。
幸い、何ひとつ荒事がおきる事は無かった。
さて、修二をどうしてやろうか・・・なんて考えてたら。
腕に温かい物が当てられる。
「・・・美咲?」
俺は腕を見る。
違った。・・・亜紀だ。
「ミズキ・・・」
思わずぎょっとする。
「あたし!あのね、あたし・・・ホントはミズキの事・・・好き・・・なの。
きっと山下さんなんかよりずっと!」
「え?!山崎???」
いつもより甘ったるい声と潤んだ瞳。
まさかコイツ・・・本気?!
何でこの期に及んで告白?!
つーか美咲も修二も白〜い目でみてるんですけど・・・。
「おいっ山っ・・・」
「ミズキ!答えて!・・・お願い・・・」
亜紀は涙目で俺の胸に顔を埋めた。
「どうしよ・・・」
俺は助けを求めるつもりで美咲を見た。
だけど
「キャァ!」
亜紀が何かに押されて尻餅をつく。
俺は上を見た。
「ぁ・・・あ・・・」
紫の煙のような物が美咲の背中から少しずつ漏れていく。
「図々しいんだよ。お前」
美咲が一歩一歩亜紀に近付いていく。
亜紀は逃げるにも恐怖で腰を抜かしたらしく逃げることができない。
「うぐっ」
美咲は亜紀の首に指を回した。
「いい加減にして。ミズキはアタシノモノナンダカラ」
美咲のやわらかな声が図太い声とだぶっていく。
後ろには段々と濃くなっていく紫の煙幕。
「ミ・・・ズ・・・キ・・・ぃ・・・」
亜紀は苦しさに顔をしかめ俺の顔を見た。
「山崎!」
修二が美咲の手を押さえつけ、引き離そうとする。
しかし、美咲から出てくる煙はどんどん濃くなっていく。
俺は銃を構える。
やがて煙幕は完全な形となり、『それ』はゆっくりと俺を見て笑った。
「ミ・・・ズ・・・キ・・・」
同時に美咲はその場にバタリと倒れた。
亜紀もそれに重なるようにして倒れる。
「お前のせいで散々だったんだかんな」
それだけ言って俺は引き金を引いた。
・・・しかし・・・
カチッと空しい音がしただけで何も起きない。
「げ・・・」
修二が軽蔑の目で俺を見ている。
『また会おうよ』
そう言って『影』は消えていった。
マジかよーーーー!!!
俺たちは気を失った美咲と亜紀を担ぎこんでバスに乗った。
右には美咲、左には亜紀。
花とハナクソ。
それにしても。まさか亜紀まで俺に惚れてたなんて。
やっぱ俺ってモテるんだなぁ。
「ミズキ・・・」
亜紀はゆっくりと瞼を開く。
「亜紀・・・」
「頑張ったべ?あたし・・・」
「ああ。」
俺は亜紀の手を握った。
「結構上手かったっしょ?演技」
「は?」
え ん ぎ ・ ・ ・ ?
「オイオイオイオイオイオイオイ!!!マジじゃなかったのかよ!アレは!!テッメェ!!」
「は?何言ってんの?ミズ・・・え?!まさかマジだと思ってたんスか?!!!」
「当たり前だろ!」
「アレは山下ちゃんの嫉妬心をマックスにする為の作戦だっつーの。つーかあたしの好みは・・・(以下略)」
確かに亜紀がライバルならムカツクかもしれない。
すっごーーーーくいろんな意味で
「で、『影』はどうなった?」
俺は首を横に振る。
「弾、入れ忘れた。」
「はぁ?」
亜紀は超・不満げに俺を睨んで、
「渡部っちもこのクソッタレに何か言ってやってよ!
あたしの命がけの演技も棒に振ったんだよ?わたべっ・・・」
「修二?」
美咲の隣に座っていたはずの修二の姿がどこにも無い。
その代わりに丁寧な四つ折りにされたルーズリーフがポツンと置いてあった。
『親の都合で予定が早まった。今日、日本を出る。バイバイ』
「どうしよう・・・追いかけるにも電車じゃ間に合わないッスよ・・・」
「・・・特急も金無いから無理だ・・・っ畜生・・・ケータイの電源切ってやがる」
美咲を背負ってM駅構内を歩いた。
「また眞島でも来てくんないかなぁ・・・」
亜紀が困りかねてつぶやく。
すると。
「彼女が二人も居るのか?色男だなぁ。田村は。」
後ろから今年一年聞き飽きるほど聞いた声が降ってきた。
亜紀は声の主に飛びついた。
「眞島先生!!!」
後ろに居たのはなんと眞島だったのだ。
「どうした?秋山。それと田村に山下。お前ら渡部の見送り、行ったか?」
「それが・・・あの、とにかく成田まで連れてってください!お願いします。」
俺は頭だけ下げた。
美咲を背負いなおす。
「私も・・・」
亜紀もしっかりと礼をした。
まだ修二に言いたい事がたくさんあるんだ。
眞島は嬉しそうに俺たちを見る。
「渡部もいい友達を持ったな。青春だなぁ〜。よし、行くぞ。」
俺と美咲は後ろ、亜紀は助手席に腰掛けたところを確認してから眞島は一気にアクセルを踏み込んだ。
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