人は願えば願うほど、その願いは裏目に出るもんだ。

「急げよミズキ!!」

「分かってるっつの」

右手を宙にかざす。

すると手のひらに光が集まってそれが何かの形を作り上げ、銃となる。

今月7体目の『影』は学校の帰り道に現れた。

 

思えばこの一ヶ月半で修二に『影』について色々教えてもらったっけ。

『影』は俺や修二みたいな能力者(つっても能力に完全に目覚めてない人の方が好きらしい)や、

『影』にとらわれている。つまり悲しみ、憎しみ、苦しみなどの負の感情で一杯になっている人を好んで襲いたがるらしい。

そんで、『影』にも、初めて戦ったアイツみたいに自分自身が直接攻撃する奴もいれば、

動物や人間に寄生して、取り付いた相手を内側から壊していく奴と、種類も様々だという。

最後に、『影』はほんの一握りの人間にしか見る事ができない。

事実、春と修二で遊んでいるときに『影』と遭遇したときがあった。

そのときは神妙な顔をして『影』を睨みつける俺と修二を尻目に、

春の奴は平然としていて、「どったの?」を連呼していた。

「うわぁ!!」

銃弾を撃ったもののまたあの肩が抜けるような感覚に思わず尻餅をついてしまう。

知恵は増えたが俺の銃撃の腕は上がることは全くなかった。

修二曰く、『光』はその個人に見合った能力を提供する筈らしいのだが、どうしてお前はそんなに下手なのか・だと。

テメーの銃撃も弱いくせによく言うぜ。コラ!撃つぞ?

「ミズキ!オイ!」

修二が俺の頭をグーで殴る。

「イデっ・・・グーは無ぇだろうよ!!グーは・・・」

「逃げるつもりだ。アイツ!!」

「は?」

『影』の身体は半透明になっていて、今にも消えてしまいそうだった。

「倒したんじゃねーの?」

「バカ。さっきの弾丸、思いっきりはずしてただろ!!!」

「マジでぇ?!」

慌てて立ち上がりもう一発撃つ。

しかし既に後の祭り。『影』は何事も無かったかのようにスッと消えてしまった。

疲労と脱力感だけを残して。

「・・・げぇ〜・・・・」

その場にぐったりと座り込む。

能力を使うと少し眠気が誘われる。

正直、しんどいっス。

そんな俺の肩に修二の手が優しく置かれる。

「ミズキちゃん。今度特訓ね。」

「ハイ。」

涙ながらに空を仰いだ。

そんな時チラリと目に入ったのは、UFOでも発見したのかって顔をして、こっちをじっと見つめる亜紀の姿だった。

・・・・まさか、見られた?

「修二、修二!!」

慌てて修二を呼ぶ。

「何?」

「あそこ」

「は?何も無いじゃん。」

へ?

確かに亜紀がいた筈の場所には何も無くなっていた。

「気のせいだったのかな・・・」

「ミズキ、疲れてるんじゃねぇ?」

「・・・」

俺が疲れてるのは間違いなく修二君のせいですけど?

まあいいや。明日は焼きそば三昧な訳だし家帰って早よ寝よっ。

 

疲労による幻覚ってのも有り得ねぇ話じゃねぇし。

気にしないどこっと。

 

人は願えば願うほど悲しいかな、その願いは裏目に出る。

影師になってからの一ヵ月半の間、ずっと抱いてきたひとつの願い。

―――どうかあの日の俺みたいな哀れな犠牲者が増える事がありませんように。

もし家族に、クラスの仲間に、その他知り合いに。

『影』の犠牲になった人が出ちまったら。

・・・きっと俺は想像も付かないほど落ち込むだろう。

例えどんなに嫌だと思った奴でも。

だけどその願いはいつかきっと破られてしまう。

なぜなら俺も『人』だからだ。

運命の渦は人には止められない。

渦の前では願いなんて全く無意味なんだ。

 

翌日

俺はいつもより早めに起きてチャリに飛び乗り、猛スピードでO駅へ向かった。

文化祭=出会いの場!!シュチュエーションに文句なしっ!!!

そんな訳で俺は超ハリキリモード。

頬に当たる風が気持ちくて、秋の日差しがとても眩しい。

死と隣り合わせの毎日で、命があることに今日も神様に感謝。

感謝してるから彼女をくれ!!!

 

「やべえよ。今日さぁ、いつもより二つ早い電車に乗っちまった!」

学校に着くなり自慢げにそう言ったら修二と春にシラケた眼差しをされた。

「俺、今日は七時発に乗ったんだけど・・・」

キャベツを洗ってる修二君。俺より40分も早い。

「俺はメンバーとのリハがあったから始発に乗ったぜ。」

エレキギターの弦を調節している春君。死ね。

俺は早起きが出来ないタイプだからこれがマックスなんだよ!!!

よく見るとクラスの90%が出揃っていた。

来てないのは遅刻魔のオタク・伊藤良祐と、

朝練してる部活組の女子二人くらいだ。

いつもは遅刻してくるはずの番長・田渕すらも着々と文化祭の準備を進めている。

連中は勉強ではない事になると凄まじい気合と行動力を発揮するのだ。

恐ろしき1年2組。

だから教師共に「学校始まって以来のバカクラス」って言われてんだよバーカ。

俺もその一員なんだけどな。

「キャー!!」

女子の悲鳴。・・・この声・・・

「千葉さん!?」

「・・・みたいだね」

修二と顔を見合わせる。

そして二人同時に駆け出した。

千葉さんは看板製作組だから美術室に居る筈・・・。

「まさか昨日逃した『影』に襲われたんじゃ・・・」

「バカ。縁起でもねえ事言うんじゃねぇ!!」

修二に一喝。

そーゆー事考えるなよ!もしそうだったら俺のせいじゃネェか!!

 

これほど願ってるのに。

神様の馬鹿野郎。

頼むから無事でいてくれ!!!

 

「千葉さん!」

美術室の扉を乱暴に開ける。

部屋には泣いている千葉さんの他に、唖然として突っ立ってる亜紀、小池、美術部の成島&上田が居た。

「何だよコレ・・・」

成島の顔を見る。

奴は黙って顔を横にふった。

タヌキが描かれている筈の看板には、無残にも赤いペンキで足跡が柄が見えなくなるほど付けられていた。

大分大型で、裸足でやったみたいだ。

 

とりあえず皆生きてた事には一安心だったが、素直には喜べなかった。

「秋山。あんたがやったんでしょ。」

小池は亜紀を軽蔑したかのような目で見る。

秋山ってのは亜紀のあだ名。お笑いの秋山って奴に似てるからそう呼ばれてるみたいだ。

「え?何であたしなの??」

「アンタ、昨日あたし達に散々馬鹿にされてたじゃん。その憂さ晴らしにやったんじゃないの?」

「・・・酷いよ・・・小池ちゃん・・・うちもこの看板作ったのに・・・」

「アンタは信用できねーんだよ。早くホントのこと言えよ!!」

足の大きさからしても亜紀を犯人扱いするのは無茶苦茶だ。

とうとう亜紀まで泣き出してしまった。

「ウチ・・・だって頑張っ・・・て・・・描いたもの・・・汚すほど・・・馬鹿じゃ・・・ない・・・よ」

亜紀は困ったように俺の顔を見る。

何故に?!

コイツの肩は死んでも持ちたくは無いが正直小池には落胆した。

小池は更に亜紀を睨みつける。

亜紀は泣きながら音楽室を飛び出していった。

これが千葉さんなら悲劇のヒロインだけど。亜紀なもんだからマヌケで滑稽な光景だった。

「あーぁ。行っちゃった」

修二がため息する。

「ストレスたまるよな。流石の山崎でも。」

「嫁いびりじゃね?」

二人して笑ったら小池に睨まれた。

「絶対あの女だからね!」

やっぱ嫁いびりだ。しかも遅婚の。

 

この後、山崎を血眼になって探さなくてはならなくなるなんて、

このときの俺は知る由も無かった。

そう、それは俺の願いが裏切られた時の事だった・・・

渦からは逃げることができない。

 

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