目を閉じると俺の血が飛ぶ映像。
嫌な事を思い出したもんだ。
胸が妙に苦しくて、布団を握り締める。夜も眠れやしない。
ケータイが鳴った。修二からのメールだった。
返事はしなかった。
答えは明日。日曜に直接出す。
一応山崎にメールをした。
<明日、11時にK駅で待ってる>
「よく来たね。てっきりミズキは来ないかと思ってた。」
「うるせぇ。」
修二の家の前。
昨日の修二のメール。<『光』に会いたくない?>。
答えは即決で行く。行ってやろうじゃないか。
この際『光』に会って楽に影師ができる能力を手に入れてやる。
テレポートとか欲しいなあ・・・
「渡部っち、今日はよろしくね。」
亜紀は俺の後ろからひょっこり顔を出す。
コイツの私服ははじめてみた。
まだ新しいブレイク物のGジャンにTシャツ。男みたいな格好だ。
「バカ。集団自殺すんのによろしくも何もネェだろ。」
「死なせはしないよ。」
修二は『任せろ』といわんばかりに自分の胸をポンと叩く。
「まあ漁船にでも乗ったつもりで・・・」
「「微妙っ!!」」
今から航海に出るのは大荒れの海だってのに・・・
いや、漁船だから・・・漁?
「じゃあ誰から逝く?」
修二は銃を具現化させて構えてウィンクする。
ペッパー警部?!ミニスカポリス?!お前の狙いは一体なんなんだ!!
「オイオイオイオイオイオイ!!!逝くは無ぇだろ。逝くは!!」
「じゃあ死ぬ?」
亜紀が首を傾げる。
「尚更ダメだっつの!つーか可愛くないからそれは止めろ!」
ちぇっと奴は顔をふくらませる。
「ミズキ、最近怒ってばっかだね。」
修二が困った顔をして笑う。
「誰のせいだよ!!!」
「じゃあ・・・安全性も含めて山崎から行ってもらう。次はミズキ。最後は俺ね。いい?」
俺と亜紀は正座をしたままコクリと頷く。
「方法は・・・コレで胸を打ち抜く。痛いけど治癒にはこれが一番手間を取らせないんだ。」
二人の視線が修二のちっぽけな銃に集められる。
「じゃあ。行くね。」
亜紀は再びコクリと頷く。
手を組んで祈るポーズ。
気持ちはなんとなく分かるけど可愛さを狙っているのならばとりあえず、しばこう。
「あの、もしウチがそのまま死んじゃったら木更津キャッツアイのDVDと一緒に赤坂に埋めてください!」
なんじゃそりゃ。亜紀らしいんだけどさ。
ちなみに俺は堤監督派だから池袋ウェストゲートパークが好きだ。
「了解。行くよっ」
バンッ
亜紀の血が辺り一面に散る。
ヒィッッ。目に入った・・・
修二はすぐさま銃をしまい、亜紀の治療に取り掛かる。
「目覚めるまでに回復させておく。終わったら即ミズキね。」
俺はだまって頷いた。
「よし。完了。次!」
三分もしないうちに亜紀の傷はサラリと消えてしまった。
「スゲェ早ぇし・・・。」
「遺言は?」
褒めてやったのに・・・シカトかよ。
「堤幸彦のサインと一緒に埋め・・・」
「うるさい。」
バンッッ
胸に重圧
飛び散る俺の汚い血
遠のいてゆく記憶
まだ今より少し幼い俺の血
浮かんでくる過去の・・・閉ざした筈の記憶
姉貴の叫び声
めちゃめちゃに殴られた俺
少しずつ思い出す・・・『あの日』の事
確実に俺の記憶は過去に向いている。
一番辛くて、悲しかった『あの日』へ・・・
でも。どうしても言いたいことがあるから最後の力を振り絞って修二に一言。
「理…不…尽…」
完全に俺の身体は動かなくなった。
あぁ・・・俺、『あの日』のことばっか思い出してて全然『光』に会いたいなんて思ってないじゃん。
だめだなぁ・・・修二の苦労も意味無いじゃん。
ホントに・・・ごめん・・・
「よう。久しぶりだな。」
聞きなれた声で目を覚ました。
そこに居たのは春。ダチの山崎春だった。
いや、正確には春ではない。『光』だ。
まとってるオーラが全然違う。
「俺、別にお前に会いたいなんて思ってなかったんだけど・・・」
「いや。今回も俺から呼んだ。お前が好きだから。」
「は?」
思いもよらない言葉に間抜け面になる俺。
「お前はしごきがいがあるんだ。」
しごき・・・ですか?
ついつい沈黙してしまう。
「新しい能力が欲しいんだろ?」
「まあな。楽して影師ができるやつが欲しい。」
『光』はにんまりと笑う。
「俺、やっぱお前の事が好きだ。まあいいだろう。ただし。」
「ただし?」
「今回は代償を貰うぞ。」
代償?!こっちはわざわざ死んでまで来たのに・・・
「代償って・・・何?」
「お前に巣食う影を見せてもらう。」
「影?」
「そう。お前の負の感情の根源。」
『光』の癖に何で影なんか欲しがるんだよ・・・
「ミズキ。」
「何」
ぶっきらぼうに返事する。
「忘れるな。まぶしい光が当たれば当たるほど影は色濃くなるんだ。」
「はあ。」
意味が良く分からなかった。
「光は影があってこそ輝かしいものだ。」
『光』は優しく微笑み、俺の額に手を添える。
頭の中が真っ白になった。
「おねえちゃん」
「なあに?ミズキ」
春の暖かい風が頬を掠めた。
昔住んでた家の近くの公園の滑り台の上にぼんやりと俺は座っていた。
聞き覚えのある甲高い声と優しい声。
見覚えのある姿。
「大きくなったらおねえちゃんとケッコンしてもいい?」
「うん。いいよ。」
十年以上も前の俺と姉貴だった。
俺には8つ上の姉が居る。
俺は小さい頃からお姉ちゃん子で風呂は10になるちょっと前まで一緒に入っていた。
ケッコンしていい?・・・・何度も聞いたっけな。
その度に姉貴は笑って「うん」って言ってくれたっけ。
うんって・・・いいよって言ってくれたのに・・・
頭の中が漂白されたみたく真っ白になる。
「ミズキ〜好きな子居ないの?」
チビたちと甲高い声で埋め尽くされた狭い箱の中。
今度は小学校に立っていた。
小さい頃はそんな話でもりあがたっけ。
「・・・お姉ちゃん」
ミズキ少年は顔を赤らめて小さく縮こまって言う。
「ハハハ。ミズキはガキだな〜」
その度にそう答えては笑われた。
だけど。それは紛れも無い事実だったんだからしょうがない。
俺は実際に姉貴の事が好きだったんだから。
姉貴の笑顔を見ると胸がドキドキして。優しい気持ちになって。
幸せをかみしめてて。いつか姉貴を守る・・・なんてかっこいい事思ってたりして。
しばらくして、その事を聞かれたら嘘を答えるようになったっけ。
目を閉じる。
次に目を開けた時には場面が変わっていた。
おそらくは小学校の帰り道の土手。
悪友たちとはしゃいでいるミズキ少年は大分成長していた。
下の毛が生え始めた頃・・・小学校6年生くらいだろう。
彼のボロボロのランドセルを背負った後姿は溌剌としていて、どこか楽しそうだった。
仲間のうちの一人・・・一番ワルでバカだった奴の家に今から行くようだ。
一体何して遊ぶんだろう・・・。
「うっひゃーすっげぇ!」
「なんかムラムラこねぇ?」
淫乱なAV女優を指差してひとりが言う。
俺はあきれ返って何も言う事ができなかった。
小学生のくせにAV鑑賞会なんてませてやがんの。
そういやそんなこと有ったっけなー。
調子に乗ってこの後にエロ本鑑賞会なんかも開いたっけ。
皆が興奮を隠し切れずはしゃぐ中、ひとりだけ部屋の奥でうずくまって大人しくしている少年が居た。
ミズキ少年だ。
もちろん、生まれてはじめてAVを見た彼は興奮した。
しかし、頭の中でAV女優の姿を自分の姉を重ね合わせて、淫らな想像をしていて。
それが他の皆の興奮と違うのが分かっていたから彼は何も言わずに一人で大人しくしていた。
伝える事によって自分の思いが誰かに知られるのが怖かったから。
姉貴とヤる所を想像しながら毎晩オナニーをしたのはもう少し経ってから。
姉貴を抱きたい。
誰にもいえなかったあの頃の俺の唯一の願望。
何もいらないから。
何を失ってもかまわないから。
姉貴が欲しかった。
異常な愛は膨らみ続けて。
実らぬ事を知っていながら思い続けて。
俺はバカだ。
次にどこに飛ぶのか、容易に想像が付いた。
きっとあの日。
俺が禁断の地に踏み込んだ『あの日』。
人生で一番苦しくて、辛くて、悲しかった日。
そして、俺を殺した日・・・・
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