恋ってのは怖い。底の無い泥沼だ。

奴らは嵌り込んだ人そのものを変えちまう。

それは『影』も同じだ。

なぜなら奴らは人の感情から生まれたものだから。

まぁそんな奴は滅多にいないんだけど。

 

今回はある女に恋をした『影』の話。

はぁ?『ある女』ってひょっとして山崎亜紀か?・・・だって?!

バカ。んな訳ネェだろ!

まあ、ある意味近いんだけどさ。

正解は山崎・・・春のカノジョ(当時)だ。

え?全然惜しくないって?

それがそうでもない。

あの子、山崎亜紀と身長が一緒なんだ!!


#4 聖夜


クリスマスシーズン。それは俺にとって魔の季節。

毎年決まってカノジョが他の男(しかも俺より微妙な!)になびいて、最終的に捨てられる。

このミズキ様を。しかもクリスマスシーズンに捨てるなんて皆どうかしてる!

世界七不思議だ。

 

今年も例年通り捨てられ子になってしまった俺は今、一週間後に迫ったクリスマスをどう過ごすかを必死で考えている。

もちろん目の前の定例会議なんてもんは眼中に無い。

「ねえ、ミズキ」

「何?アキオ」

亜紀はアイスを豪快に頬張る。

「クリスマス、空いてる?ってゆーかアキオって何?」

「アキはオスだからアキオ。はぁ?!クリスマス?ダメに決まってんだろ。」

「何で」

「何でお前なんかと過ごさなきゃなんねーんだよ!アキオのクセに。」

吐き捨てるように言って、修二の買ったナゲットを奴の居ないうちにひとつ口の中へ放り込んだ。

「ちぇっマスタードかよ。」

「ミズキおこちゃま」

「うるせーよ!」

今の俺はご機嫌ナナメ。

「亜紀・・・クリスマス誘っちゃうってことは・・・まさか俺のこと好きなの?」

亜紀の顔はぐんぐん真っ赤になっていく。

え?!ちょっ・・・まさか図星??

「自分からそんなこと言っちゃって恥ずかしくないの?聞いてるこっちが恥ずかしくなってきた・・・」

違った。

全然全くモロモロ違った。

「あんだとぉ〜〜〜?!ざけんなコルァ!」

すんげー悔しい・・・何だよこの敗北感・・・

「誰も二人きりで聖夜を過ごそうなんて言ってねーよ。」

亜紀はため息してゴミ箱に向かう。

入れ替わりに皆の追加オーダーを受け取ってきた修二が椅子に腰掛ける。

「渡部っちとミズキと亜紀の三人で過ごさない?」

修二が笑顔で首をかしげた。

「まずはその一人称をどうにかしてくれ。」

亜紀と過ごすのも嫌だけど修二が加わると一層嫌になる。

最悪といってもいいくらいだ。

どうせ奴の事だ。

『影退治しながらイブを祝おうよ!』

なんてヌかして疲労のみのクリスマスのクの字も無い一日を送る事になるだろう。

クリスマスくらい休みたいんだよ!俺は!

それに近頃、奴はこの間の件で『光』から貰ったらしい新しい能力を駆使して『影レーダー』なるものを発明しちまいやがったもんだから

お陰で一気に行動範囲が広がっちまった。

だから以前にもまして俺は疲れてるんだ。

カノジョにもフられて心も枯れてるし今の俺はボロボロなんだ。

「あ。」

ド○ゴンボールレーダーに形がよく似た『影』レーダーがピーピーとうるさく鳴る。

「いい加減この音やめない?」

「いいの。それより急ぐよ。M駅南口の周辺だってさ。」

「ハイハイ」

どっこいしょと重たい腰を上げて、俺はのろのろとテンション上昇中のバカ二人についていった。

あったく。戦うのは俺だけだからってのん気なもんだぜ。

 

「喰らえ!魂の弾丸・レッド!」

パッと見40代の会社員に銃を向け弾を放つ。

赤の弾は彼の広い額に命中し、バタリと地面に倒れた。

「ミッション・コンプリート」

俺は銃口をフッと吹いた。

やべぇ。俺、超カッコよくない?

「ミズキ・・・キモっ」

亜紀は3階建てのビルの階段に座って珍獣でも見るような目を俺に向けた。

「むしろサムい。よく言えるよな。そんな死語よりも更に死んでるようなセリフ。」

奴より二段上に座っている修二も同じ目で俺を見ている。

「うっせーな!バトルに参加してねぇくせに!!山崎に至っては能力すら目覚めてねえじゃんかよ!!」

『光』に会ったはずなのに亜紀には能力は目覚めなかった。

正確には何が能力なのかわからないだけなんだけど。

奴は『光』に”見えない力をやる”って言われたらしいが、

やはりと言うべきか本人も未だにその”見えない力”が何なのかが分からないらしい。

「るせーよバカ!誰のお陰で銃を上手く撃てるようになったと思ってんだよ!!」

・・・そうだ。

実は前に亜紀から貰った『よいこの発砲』が思った以上に参考になり、今では片手で銃を撃てるまでに上達してしまった。

まあ半分は俺の才能だろうけど。

それでも奴の功績はスゴイもんで悔しいけど能力が無いくらい目をつむりざるを得ない。

 

「さ。帰るか。」

亜紀と別れて、修二と駅ビルのマルイの中をぶらぶらと歩いていた。

M駅は仮にもI県の県庁所在地にある駅なので少し広くてデカイ駅ビルが二つもある。

年頃のカップルの県民は必ずと言ってもいいほど一度はここでデートをする。

そこぐらいしかデートできる場所が無いから。

 

「あ、そろそろ電車の時間・・・。」

修二がケータイを見てつぶやく。

これから一人さびしく駅前通りでも歩くか。

ため息が白く染まった。

その白の向こうにはダチの山崎春の姿とそのカノジョらしき女。

「見せ付けやがって。」

吐き捨てるように言ったら修二も珍しく同意の頷きをした。

「アイツ、浮気してんだよね。」

「はぁ?!」

「今、一組の姫路さんと付き合ってるはずだもん。」

なんてこった。俺はカノジョが欲しくて仕方が無いってのに奴には二人もカノジョが居るなんて・・・

世の中の不条理だ。

それに姫路さんなんつったら学年トップクラスの美人じゃねぇかよ!

俺は恨めしく思いながらも春の背中を黙って見送った。

 

それが事の発端。