<sideξ 田村聖尋樹>

そいつの第一印象は決して強いもんじゃなかった。

敢えて挙げるとしたら・・・どん臭そう。

でも意外に運動神経も良く要領も悪くは無い。

そして、よく解らないけど、あの少し小さめの身体には大きな闇が潜んでいる気がしたんだ・・・。



#1 夢



<side刀@高橋永久>

桜の香りが鼻をかすめる。

窓の外には大きな桜の花。

教室には半分以上が去年のクラスメイト達だ。

男子は特に仲の良かった人は大分減ったけど藤原が居るから別に問題は無い。

今から千秋の居る三組に挨拶に行く。

千秋は千秋で仲の良い奴と一緒のクラスになったみたいだから困ってはないだろう。



<sideξ 田村聖尋樹>

「あぁー・・・高橋の・・・メガネ・・・」

「もう済んだことじゃん」

窓から見える大きな桜を背にして見えるのは俺が昨日『影』から助けてやった高橋永久だった。

偶然にも俺と奴は同じクラスになってしまったのだ。

ちなみに修二や春も二組。

三組なのは亜紀だけだ。

「メガネ・・・」

「まだ言ってる。」

「壊れちまったもんは元に戻らねーんだよ!それにな、裸眼ってのは怖いんだかんな!!何が起こるかわからねぇ!」

昔、コンタクト無しで外出したらドブに落ちたし・・・。

「・・・でもさ。」

修二はトーンの低い声を出す。

「何」

「命は助かったじゃん。メガネなんて多少高くてもいくらでも買えるじゃん。欲張るとろくな事がないよ」

その言葉、そっくりそのままお前に返す。

「あのさ、話変わるけどさ、修二って影師増やしたいの?」

「そうだねぇ。やっぱり増やしたいなぁ」

「どんくらい?」

「一万人」

だめだ。スケールが違う。

「マジかよ・・・」

「あくまでも世界中で、だけどね。」

「範囲もありえねーよ!そーいうんじゃなくて。俺たち3人の影師に更に4人目が必要かってこと。」

「もちろん増やしたいさ。でも何で?」

「亜紀がぼやいてたから。」

「へぇー」

修二は腕を組んで、

「じゃあ増えるかも・・・」

「は?」

意味がよく解らなかった。



窓から見える桜を見た。今度は高橋の姿は見ることができなかった。

<side刀@高橋永久>



「イヤミだ。」

「イヤミだねぇ。」

千秋は僕の頬をその細い指でツンとつつく。

「キモイよ!」

「二組だからって威張るなよ!コノヤロ!!」

何を隠そうこのの学校の二年次のクラス編成は成績別に分けられる。

っていっても二組と三組の成績差なんてほんの少しだ。

当然ながら千秋のこの発言もいわゆる「いじり」って奴なのだ。

「誰が威張ったの?俺威張って無いから!」

いじられたらどんなに本当のことを言われても否定して返すのが礼儀だ。

まぁあくまでも僕の意見だけど。

僕はこの立場を別に嫌っては居ない。居心地がいいわけでもないけど。

だから僕は当分この立場を動くつもりは無い。

「顔が物語ってる。」

ただ千秋にいじられている僕をぼーっと見ているだけの友人・鈴木 翼が言う。

彼はいつもぼーっとしている割に鋭いところがある。

年中無休で能天気の千秋とは質が違う。

「ナイス翼☆永久!今日の昼はお前のおごりな!」

「何でだよ!やだよ!助けて翼!!」

「じゃあお昼は割り勘でいっか。ね、千秋」

「え〜」

翼の笑顔に一瞬救われる。

千秋はバカだが僕を困らせたり苛立たせたりするのに天性の才能を持っている。

「そのかわり。」

「え?」

「ボーリング、3ゲームおごって」

「ええ〜〜〜翼ぁ〜」

「超グッジョブ☆翼!!」



<sideξ 田村聖尋樹>



「まさか高二になってもまだ連れションだなんて・・・親が聞いたら泣くよ」

「連れションじゃねーよ!髪立てに行くんだ!」

「どっちでも友達とトイレってことには変わんないだろ?つーかミズキはセットする時間が長いんだよ・・・」

後ろを歩く修二はため息を連発する。

「だってさ!セットしなかったら俺のファンが引くだろ?」

「お前のファンなんてもう東京に行っただろ!」

「居るの!他にも!!つーか今日の夜だから。行くのは。まだ行ってないから!!今日はな、二人っきりで・・・」

「ハイハイ」

修二は早足で俺を追い越して行った。

「永久ぁ〜おごれよ〜」

「やめろってばぁ〜。つーか今日部活なんだよ〜」

三組のドアから見えるのは細身の色白とぼさっとしたチビの男にからまれてる高橋。

俺は思わず立ち止まり、その光景を見物しちまった。

アイツ・・・やっぱいじられキャラなんだ・・・。

「いい加減に・・・・」

いよいよぶち切れる寸前で。高橋は俺の存在に気づき、黒目がちな目を大きく見開いた。



<side刀@高橋永久>



視界に入ったのは新しいクラスの男子。

名前はまだ分からない。

だけどどこかで会った気がするんだ・・・。

そして何秒かが経ち、

「うっ」

心臓がひどく脈打ち、頭が雷に打たれたかのように痛烈に痛んだ。

「永久?!」

「どうしたの??」

「高橋――!!」

何人かの叫び声が聞こえ、突然目の前が真っ暗になった。

<sideξ 田村聖尋樹>



「高橋っ」

俺は突然倒れこんだ高橋のもとへと駆け寄った。

「高橋―――!!」

「永久!!永久ぁ!!」

色白・細身の男が高橋の頬を何度も叩いたが、高橋が目を覚ます気配は全く無い。

「田村君・・・?」

亜紀も友達とのおしゃべりを抜け出して俺たちのほうへ寄ってきた。

「おう、山崎・・・」

「田村君、大丈夫?!」

しかし、あのバカは高橋の身体を必死で揺さぶっているではないか。

「山崎・・・?」

「田村君!田村君!!起きてよ!!起きないとあたしが夢にでてきちゃうからね!!」

「それ・・・俺じゃないんですけど・・・ってゆーか不吉な事いわないで。ね?」

「は?・・・ギャッ」

亜紀は軽く悲鳴をあげる。

「なんだよ。」

「た、田村君が・・・ふたり・・・キャー!!ドッペルゲンガーーー!!」

「バカ!一人しかいねーだろうが!それはな。高橋永久っていう・・・」

だめだ。それに続く言葉がみつからない。

「とにかくうちのクラスの高橋永久って生きもんだ。」

つーか昨日助けただろう。

なんて口が裂けてもこんなところで言えない。

「確かに・・・似てる・・・。」

色白はボソリとつぶやいた。

「似てねーよ!一緒にすんじゃねぇよ!!」



<side刀@高橋永久>

水の滴る音で目を覚ました。

「おはよう。」

女の高い声。

僕の足元に広がる水面以外には何も見えない。

「後ろ」

僕は振り向いた。

そこに居たのはお世辞でも美人とは言えない女。

でも・・・少しくらいなら可愛いって言ってあがられる・・・かな?

「誰?」

「教えない」

「何で」

「アンタが嫌いだから。」

「いや、わけわかんない・・・」

「それで構わないから。ところでさ、」

あ、勝手に話を変えられた。

「昨日、君は何を見た?」

「え?昨日??」

昨日は怪物の夢を見た。

でも同じ「見た」って言葉でも夢を見ると、この瞳に物を映すのでは大分ニュアンスが変わる。

この場合、彼女は間違いなく後者を求めている。

そもそもこの人に僕のプライベートを曝しても意味が無い。

「桜」

嘘ではない。

昨日は早咲きの桜を教室の窓から、夜の公園から、そして夢の中でぼんやりと眺めていた。

「へぇー・・・夢ねぇ」

「え?」

何で?夢なんて一言も口に出していない。

「これも夢だからね。永久くん」

そっか。夢だからかぁ。

夢ならもっと美人な人と話がしたかったなぁ・・・・。

なんて思ってたら女の人は一瞬悲しい顔をしていた。

「質問、変えよっか。昨日の夢・・・で誰を見た?」

「・・・知らない人。」

「嘘。知ってるじゃん」

「知らないよ!会った事もない。」

「さっき見たじゃない」

「え・・・」

思い出した。

あの新しいクラスの男子だ。

眉毛が濃くて健康的な肌色。そしてあの強い目。

間違いない。

「解った?そろそろ時間みたいだから最後にひとつだけ。」

僕は頷く。

「君のメガネはどうして割れたの?」

僕は慌てて跳ね起きた。

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