マックでの会議も頭に入らない。

それどころか山崎さんの甲高い声に苛立ちを覚え始めている。


――離せ!


あの時、藤原は悲しい顔をしていた。

その顔をさせたのは他でもない僕だ。


僕は藤原を失うかもしれない。

藤原の失えば僕はこれから誰の後ろで生きていけばいいんだ?

いや、ミズキ君たちや、最悪、千秋がいるじゃないか。

じゃあどうして僕はこんなにあせってるんだ?

「ごめん」

「「「?」」」

立ち上がる僕を見てきょとんとする三人。

「今日はもう帰る。」

帰って。とっとと寝たい。



<sideξ 田村聖尋樹>



「今日の永久君、おかしくなかった?」

亜紀はため息混じりに言う。

「さあ」

修二は首をかしげた。

「なーんかなじまねぇよなぁ。亜紀なんてメンバー入ったら

2週間でもう“あたし、ふたりの親友なんっす〜”みたくなっちまったのに。」

「似てない」

あくまで不機嫌を通す亜紀。

「だってさ。永久君って完全にこっちに身を置くのを怖がってるみたいじゃん。」

亜紀はさびしそうに永久の座っていた椅子を見つめる。

「まあなぁ・・・」

それは藤原や千秋ちゃんのことを言ってるのだろうか。

俺達ほどじゃあないが決して二人とは長い付き合いじゃないだろうに。

千秋ちゃんはともかく藤原のことはあながち間違っちゃいない。

よくわかんないけど二人はどこか相互に依存しているように見えていた。

外は雨。

梅雨の憂鬱な空気は俺達の心まで湿らしていく。



<side刀@高橋永久>



誰かが泣いていた

僕は血だらけで動く事ができない。

「タスケテ−−−をタスケテ」

声が大きくなっていく。

「タスケテ・・・タスケテ・・・」

「大丈夫だよ。僕が助けるから。」

僕は手を大きく広げ、“誰か”を抱きしめた。

「アリガトウ・・・永久・・・オネガイ・・・ね」

“誰か”は微笑み、何羽もの瑠璃色の蝶へと姿を変え、

僕の腕からバサバサと飛び立っていった。


ジリリリリリリ


「ん・・・・」

僕はけたたましくなる目覚ましの音で目を覚ました。



<sideξ 田村聖尋樹>



ガラス窓から光が降り注ぐ。

今日はすがすがしく、昨日と違ってカラッとしていて夏らしい日だ。

「ち・あ・き・ちゃーん」

いつも通り、記念館のロビーにはひとりで午後ティーを飲む千秋ちゃんの姿。

「お、ミズキじゃん!」

最近は照れ屋の千秋ちゃんもかなり心を開いてくれて、かなりの仲良しになった。

休みに会ったりはしてないけどメアドも交換したんだぜ?

「あのさ、昨日永久に会った?」

千秋ちゃんが永久の話を切り出すのは珍しい。

「ああ。ちょっとだけ。元気なかったけど、どうしたん?」

「さぁ。こっちが聞きてーし。しかも藤原も落ち込んでるんだよね。」

「へえ」

「ちょっと疎外感」

とか冗談を言って千秋ちゃんは頬をふくらます。

「俺がいるじゃん」

なんて言ってみて隣に腰掛けたら

「一人のがまし」

だってさ。

「さては・・・奴ら、ケンカでもしたのかぁ〜?」

俺はニヤリと笑った。

青春だなあ。もう。皆。



<side刀@高橋永久>




今日もまた藤原と話せずにあっという間に放課後になってしまった。

その上。僕は今、藤原と望んでもいないのに藤原と二人きりで教室で自習をしている。

とにかく息が詰まる。

誰でもいいから助けて欲しい。

なんて思っていたら・・・

「とっわくーん☆」

山崎さんだ。

本当にこの場にとって最悪な人が来てしまった。

「永久君、今日は会議無しだってさ。」

「う、うん」

僕は藤原をチラリと盗み見る。

こちらには一切見向きもせずにせっせと日本史を勉強していた。

僕は自分のしてしまった事を最悪に後悔し、いまの現状にただひたすらため息をすることしかできなかった。



<sideξ 田村聖尋樹>




「やぁっぱカキ氷はうっめぇよなぁ〜。」

「おっさんか」

今日は暑くてだるいし、運がいいことに学校の近くのスーパーのアイスが半額だったので

会議はやめして修二と一緒に買って立ち食いすることにした。

修二はおいしそうにパピコをチューチューしている。

子供か

「食べ終わったらどーする?」

「暑いしクーラー効いてっから教室にもどろうべ。」



<side刀@高橋永久>




「はぁ〜肩こった。」

「おっさんか」

ミズキ君と渡部君が二人仲良く教室に入ってくる。

「おっ山崎」

「来ちゃった☆」

山崎さんは能天気に二人に手をヒラヒラと振っている。

藤原を見た。

やっぱりこちらには興味が無いようだ。

ああ。板ばさみ。落ち着けない。落ち着けるわけが無い。

そんなときだった。


♪♪♪♪


「「「「!!!!?」」」」


僕たち四人のケータイが各々の気に入りのメロディを奏で、不協和音を作り出す。

この近くに『影』が居るんだ。


教室の証明がパチンと落ち、周りの一切の光が遮断され、あたり一面が闇に染まる。

「え?なに?なんスかこれ?」

混乱して“うそ大阪人”みたいな口調になった山崎さんの声が響く。

「オイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオーイどーなってんだよ!!」

とミズキ君。わかるもんか。

「みんな、居る?」

渡部君の声だ。さすが彼は冷静だ。

「きゃーバカっ!!どこ触ってんの」

山崎さんの声。

パチン

「えっと・・・こっち?」

声が小さくなった渡部君がおもむろに僕の手を掴む。

「藤原!!!!」

僕は空いている手をかいて彼を探した。

「藤原!藤原ぁぁ!!どこ?返事してよ!!」

僕は渡部君の腕を引き剥がそうとする。

「永久君!」

しかし渡部君は掴んだ腕を決して放そうとはしない。

「永久を離せ。」

聞きなれた声。

「藤原!」

僕は叫んだ。

彼の元へ駆け寄ろうとする。

「ダメだ!永久君」

渡部君が僕を引き戻す。

「どうして?藤原が・・・」

「今離れたら危ないんだよ!!」

渡部君は後ろからしっかりと僕を抱きしめる。

「永久は・・・お前らの道具じゃないんだ!!」

ビュウウウウウウウウ

突風が吹き荒れる。僕は思わず目を塞いだ。



しばらくして、風の音が止んで、恐る恐る目をひらいた。

「なんだよ・・・ここ・・・」

ミズキ君の声が裏返る。

「迷路・・・?」

山崎さんが言う。

目の前に広がる空間。

そこは見慣れた教室ではなかった。

辺りは壁に囲まれ、多方に道が別れ、広がっている。

「永久」

今度は藤原の姿がはっきりと見える。

「藤原!」

僕は彼の近くに寄ろうと渡部君を押し切り前に進み出る。

「ダメだ!永久君!!今の彼は・・・」

渡部君が僕の目の前に立ちふさがる。

しかし

「うわぁっ」

渡部君は見えない何かに、まるで映画のワイヤーアクションのように吹き飛ばされ、

背後に有った壁にぶち当たる。


「修二!!」

ミズキ君は渡部君のもとへ駆け寄る。

「藤・・・原?」

僕は恐る恐る藤原の顔を見る。

「俺が・・・永久を・・・守る!!」

藤原は両手を前に出す。

その瞬間、強い光と共に竜巻が起こる。

「うわああっ」

ぶわっと体が浮き上がる。

あまりの風の強さに僕たちは大分高くまで上げられてしまった。

「永久君!」

渡部君が僕のワイシャツの袖を掴む。

「山崎、掴まれ!」

「へい!」

ミズキ君の腕に山崎さんはガシリと捕まる。

「永久!」

「ミズキ君!」

僕はミズキ君の伸ばした手を取ろうとする。

「永久―――――!!!」

「ミズキ君っうわあああああ!!!」

強い突風にあおられ、僕たちは散り散りに吹き飛ばされた。

NEXT