<sideξ 田村聖尋樹>
「ん・・・」
体中が痛む。
「大丈夫?」
亜紀は心配そうに俺の顔を覗き込んだ。
「まーな。どっこらせ。と」
俺は起き上がり、ズボンについたほこりをパンパンと払い落とす。
「あれは間違いなく『影』にやられてたね。」
「あぁ。まさかあの藤原が『影』に憑かれるなんてな。」
「どうするんの?これから」
「そりゃあ・・・藤原を探そうぜ」
亜紀は黙って頷いた。
<side刀@高橋永久>
「永久」
独特の滑舌の悪い千秋の声。
「永久」
でもどうして?
今、僕は異空間の迷路の中に居るはずだ。
僕は目を覚ます。
「おはよう」
僕の目の前にたたずむ彼は紅い唇を歪ませ笑った。
「千秋・・・じゃないですよね?」
彼は更に深く笑い、その濡れた瞳を僕に向ける。
「久しぶりだな。高橋永久。」
光だ。
「あの、藤原は?」
彼は首をゆっくりと左右に振る。
「やられてるよ。『影』に。」
「・・・そうですか・・・」
あの豹変ぶりやケータイの『影』反応。異論する要素は何も無い。
「お前にアイツを助けてやって欲しい。約束しただろ?」
「誰・・・とですか?」
「コイツとだ。もっともあいつ自身は“本物”に助けてもらいたいみたいだけどな。」
光はひとふりの洋剣を取り出す。
「?」
<sideξ 田村聖尋樹>
「藤原君ってどんな人なの?」
そうか。亜紀はクラスが違うから藤原の事よく知らないんだっけ。
「優しくて頭のいいやつだ。」
あの“トワ”をみてヤツだけが唯一、恐れを抱かなかったのだから。
「そんで永久の一番の親友。」
「ふーん」
そうだ。
あのうどん屋で話をした時、アイツは俺に永久を危険な目にあわせるなって言ってた。
約束破ったから・・・怒らせちまったのかな?
だったら全部俺のせいだ。
「ミズキ」
「あん?」
「なんか聞こえてない?」
手を耳に当ててみる。
「たす・・・て」
かすかに聞こえる声。
とても悲しそうな悲鳴のような声。
「た・・・けて」
今度は少し大きい。
「・・・助けてえええええ」
痛烈な叫び声。
これといった特徴がないから確実にとはいえないけど。
この声・・・まさか・・・
「藤原?」
「・・・だよね・・・」
「亜紀、急ぐぞ」
「ウン」
亜紀は頷く。
俺達は走り出した。
<side刀@高橋永久>
「永久君」
「・・・んっ・・・」
渡部君が心配そうに僕の顔を覗き込む。
「大丈夫?一応治療したんだけど・・・」
吹き飛ばされて地面に叩きつけられたっていうのに。
そういえば痛みが無い。
それどころか今日大村に殴られてできたたんこむも消えている。
そうか。これが渡部君の能力なんだ・・・。
「あれ?」
渡部君は何かに気付いたのか、顔を上げ、耳をすます。
「声・・・が聞こえる」
「声?」
本当だ。
何かがこだましたようなかすかな声が聞こえる。
僕は目を閉ざし、耳に全視神経を集中させた。
「た・・・け・・・」
少しだけ声が大きくなる。
「・・・けて・・・す・・・て」
た す け て ?
・・・助けて!?
「藤原!」
僕はバッと立ち上がる。
「待ってて!すぐ行くから。渡部君。行こう!」
渡部君は優しく微笑み、深く頷いた。
藤原・・・。
絶対に僕が助けてやるから。
だって君は・・・
僕のかけがえのない親友なんだから。
<sideξ 田村聖尋樹>
「あー!!!もうマジめんどくせーーー!!!」
俺はひざをつき、そのまま地に寝転ぶ。
「ミズキー!何やってんのあんた!」
あーやばいやばいこの体制だと亜紀のパンツが見えちまう。
とりあえず寝返りをうつ。
「だってさぁ。また行き止まりだぜ?行っても行っても行き止まりだぜ?
もうやんなっちったよ。燃え尽きた。」
あーあ。楽して進める方法があったらなぁ・・・。
「人生そんなもじゃない!!行き止まりなんてなんぼのもんじゃい!」
なんか疲れた。
節々が痛いし。
亜紀が痛いし。
「じゃあお前は永久に振られてもその行き止まりをのりこえられんのか?あん?」
「乗り越えてやるよ!つーか覚悟くらいできてるっつの!んなもんぶち壊してやる!!」
ぶち壊す・・・かあ。
「つーかミズキ!なんて事言ってんだよ!落ち込むじゃん!ガラスの心にひびが入ったじゃん!!」
ヒビなんてよく言うよ。
ガラスの心?どんな弾丸もしっかり跳ね返すくせに。
ん・・・ぶち壊す?
・・・ヒビ?
「そうだ!」
俺は立ち上がり、腕を挙げ、銃を取り出す。
「壊して一本道にすりゃいいんジャンかよ♪」
バンバン
俺は壁に弾丸を二発撃ち込む。
よし!これで楽して藤原んトコ行け・・・
「なにこれ。覗き穴?何覗くの?こんなトコで。」
「・・・」
言葉に出ないほどの敗北感。
「ミズキ・・・ひょっとして壁、壊そうとしたの?」
「そうだよ。何か悪ぃか?」
「それやるなら・・・多分あたしがやったほうが早いよ。」
「ぶぁっかじゃねーの?大体お前の能力って例の・・・」
亜紀はいつの間に出していたのやら黄土色と白の拡声器を構えていた。
「だっせぇ!やべっ超やっべえ!マジでヤベェよコレ!先生じゃん!!」
亜紀は笑い転げる俺を完全にシカトして拡声器に向かって思い切り叫び声をあげた。
耳が千切れそうなほど痛い。
「いででででっこんなんで壁なんて崩れんのかよ・・・」
ガシャガシャガシャガシャガシャガシャ
俺の背後で何かが崩れる音。
「ありゃりゃりゃりゃー・・・・。」
クラクラする頭を抱えながら俺はその光景に絶句した。
亜紀の衝撃波を食らったところだけ見事にずっと向こうまで壁が崩れている。
「どうだ。頭が高ぇぞ。オラ。これからはあたしのことを亜紀様とお呼び。」
「ハイ亜紀様。質問デース。」
「何だい?土瓶」
「藤原が見つかんなかったらどうするんですかー?」
「別な方向を崩す。」
「藤原が衝撃波喰らって死にかけたらどうするんですかー?」
「大丈夫。修二がいるから。」
じゃあ修二に当たったらどうするんだよ。
能力があっても無くてもやっぱコイツは爆弾だ。
<side刀@高橋永久>
「助けて・・・」
声は止まない。
細々と弱弱しくてもずっと続いている。
声を聴くたびに辛く胸が痛む。
「渡部君・・・」
「?」
「藤原、実は・・・『影』が見えてたんだ・・・。」
「そう」
「話さなくてごめん」
「仕方ないよ。・・・でも」
渡部君はニコッと笑う。この笑いは・・・
「そうと解ったら藤原君を助けたら絶対に影師になってもらうからね!無理にでも」
「やっぱり〜?」
この顔は前にも見たことがあった。
僕自身がこの人にスカウトされたときに・・・。
藤原は助けても助けなくても地獄行きは決定しているみたいだ。
待っててね。藤原。今助けるから。
助けたその先は生き地獄だとしても。
一緒に付き合ってあげる。
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