<side刀@高橋永久>
「・・・渡部君」
僕は渡部君の背中をさする。
「ありがとう・・・」
渡部君は口元を水で洗い流す。
「大丈夫?」
「何とか」
「じゃあ行こっか。皆待ってる」
渡部君と僕はトイレを出た。
この世で一番恐ろしいものを見た。
『影』が『影』を喰らう瞬間。
音が消えたようだった。
美女の顔が一瞬でゆがみ、崩れ、舌を伸ばし、伸ばして
よだれをたらしながら、下品な音を立てて『影』をむさぼった。
そして僕たちは気付けば学校の教室へ戻されていた。
藤原が操っていた『影』が食われたことにより能力の効果が無くなったからだ。
僕は吐き気をこらえて教室へ向かった。
<sideξ 田村聖尋樹>
また取り逃がした。
畜生。悔しい・・・。
今度はなすすべもなかった。
この世のものとは思えない光景に唖然としている間に気付けば元の世界に戻されていた。
「くっそーあんにゃろう・・・」
ドンッ
俺は思いっきり机をたたいた。
「ん・・・」
音のせいで床に寝転んで眠っていた藤原の目を覚しちまったみたいだ。
ばれたら修二に怒られる。
「藤原・・・」
修二と永久は気持ち悪くなってトイレに行って、
亜紀は三組に荷物を取りに行った。
今、俺と藤原はふたりきりなのだ。
「ごめんな。藤原。約束破って永久を危険な目にあわせたこと・・・」
「・・・た・・・むら?」
「ああ。寝起きでだるいとこごめんな。でも・・・これだけは言っときたくて。」
「・・・いや・・・」
藤原は首を左右に振る。
「本当は全部知ってたから。」
「?」
「俺には昔から人の心を読んだり遠くのものを動かしたりする力があったんだ。」
「超能力?」
「まあ。そんなもんだな」
信じられない。
テレビで、よく見るからにいんちきな超能力者をやたらと見るけど
どう見てもフッツーのめがね君・藤原がそんな凄いやつだなんて。
・・・なんて言っても俺も超能力者と大して変わり無いか。
藤原は起き上がり、俺の前の席に腰掛ける。」
「今回の事も田村の心を読んで大体わかってた。
・・・お前らが『影』って呼んでるヤツも見えてたし。」
「?!」
驚く俺を省みず、藤原は続ける。
「ごめんな。勝手に読んだりして。」
「いや、別に・・・」
やっべー。
なんか危ない恋愛してーなー千秋ちゃんのこと犯したいなー
とか考えたのも読まれちゃったわけ?
「そうなのか?!」
目を丸くする藤原
「読むな!そうだよ犯してーよ!カノジョと遠距離だからセックスしてねーんだよ!
千秋ちゃんラブなんだよ!なんか悪いか!!」
大声でまくしたてる。どうせもう遅いからこの学校も俺達しか居ないもんね
「あ、千秋君じゃーん」
隣のクラスから聞こえる亜紀の甲高い声。
げ
「どんまい」
「うるせー!」
藤原は弱々しく苦笑いする。
「好きなときに読めるの?」
「ああ。だけど人間は欲深い生き物だ。もちろん俺も人間だ。
人に嫌われない方法を探してたいていは読んじまう。」
「なるほどね」
「だけど・・・一人だけ心が読めないやつがいたんだ。」
「だれ?」
藤原はワンテンポ置いて深呼吸する。
「永久だ。」
「ああ。あいつの心だけはどうしても読めない。
ただ」
「ただ?」
「一度だけ・・・“あの日”だけ俺は永久の心を聞くことができたんだ・・・」
うどん屋で話した事を思い出す。
「何て言ってたんだ?」
「たすけて。そう言ってた。その日から、俺は永久の不思議な魅力に惹かれて行った。
親友として永久を守ろう。影で助けていこうと心に決めたんだ。
だけど・・・永久に拒まれて・・・からっぽになっちまった俺は・・・」
「影にやられたわけね。」
「ああ」
藤原は頭をたらし、ホコリだらけの床を見ていた。
「だけどさ、つかれてても意識もあったし。フツーのヤツなら影につかれたことなんて忘れちまうんだぞ?
おまえ、素質あるんじゃねーの?」
藤原はしばらくの間だまりこんでいた。
ああ。俺の下手な慰め言葉がこいつを怒らせちまったのかな?
ガタン
「ん?」
藤原は突然立ち上がり、ひざと手のひらを床につけ、ゆっくりとだったが頭も床につけた。
「お願いだ。俺に永久を守らせてくれ。俺はやつを危険な目にあわせるわけにはいかないんだ。
また空っぽになるのは嫌なんだ。傍にいさせてくれ!お願いだ。」
「藤原」
「お願いだ。いや、お願いします。お願いです。」
「結構きついよ?それに守るのは永久だけじゃない。『影』に狙われた人たちと俺達みんなだ。」
「ああ。わかってる。俺が出来る事ならなんでもする。だから!」
「じゃあ・・・」
俺は藤原に手を差し伸べた。
「頭上げろよ。ダチじゃん。俺達って。」
「田村・・・」
泣きそうな顔をしてフジワラは俺の手を取った。
「償いよ・・・一生をかけてでも・・・今日の罪は。お前らを全力で守る。」
「ああ。償ってくれ。嫌って言ってもお前はもう俺らの大事な仲間なんだから。」
<side‡ ???>
美しいものになりたい
たとえば藤原晶の全てを包みこむような心のように
たとえば田村聖尋樹の決意や意志を握った大きな拳のように
たとえば憎くて殺したいほど淀んだ、しかし淀んだゴミがきらきらと揺らめきながら煌く高橋永久の目のように
「あ、千秋君じゃーん」
甲高い声が俺の名前を呼ぶ。
おれは振り返る。
「山崎さん・・・」
「どうしたんスか?永久君たち、二組にいますよ?」
「ああ。ありがと」
どういたしましても。ただ頷くことすらせず彼女はさっさと教室からでて行ってしまった。
この世で汚いものなんておれと彼女くらいだ。
逆に言えばおれは社会不適応者であり、精神病まがいの彼女と同じくらい汚いものなのだ
ああ美しいものになりたい。
空に向かっておれは一度シャープペンを振った。
頭の中でベートーヴェンの悲愴が響き渡る。
何の取りえも無い自分の姿に涙をこぼした。
なんだ。やっぱりおれも社会不適応者であり精神異常者なのか。
陽が雲に隠され、おれは陰に包まれ色を奪われた。
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