「永久、いいかげんCD返せよ」
「あぁゴメンね。忘れた。」
お気に入りのクラシックのCDを何度言っても高橋永久はそういって返さない。
別に彼はだらしのない人間ではないはずなのに。
そうやっていつも彼はおれのものを奪う。
物理的なものだけではない。
友達や地位、たくさんの大切なものが奪われていった。
彼のどこか抜けた人柄が魅力的だとみなは言う。
しかし、おれは知っていた。
やつの本性が悪魔であることを。
周りの人間を同じ生き物と見ない冷徹な悪魔であることを。
ある意味でおれは彼をにくんでいるのかもしれない。
それでも。
悪魔でも冷徹であっても人をひきつけることができる美しい彼を。
どうやっても美しくなることができないみにくいおれは。
「あ、永久君。やっほー☆
「あ・・・山崎さん」
この二人、知り合いだったのか?
永久はたじたじになりながら弱く手を振る。
いい気味だ。
おれと同じ醜い者
山崎亜紀
「じゃ、俺ちょっと次移動だから」
永久は急いで教室へ戻る。
「がんばってねー」
そして山崎もそそくさと自分の教室へ戻ろうとする。
「おい。山崎。」
「えっと・・・鈴木くんだよね?」
「千秋だ」
「あ、ごめん。何?」
「今週の日曜。暇か?」
「え・・・?」
「暇?」
「・・・うん」
やつは肩をすぼめ小さくうなづく。
「なら今週の日曜。M駅の南口で待ってろ。1時だ。いいな」
「・・・え?・・・はい」
てっきり勘違いでもして馬鹿みたく喜ぶかと思ったけど
やつの目はどこかおびえていた。
もとも相手がおれなんだからいくらあいつでも喜ぶわけはないんだけど
「翼、今日暇?」
「ごめん。今日は彼女とデート。」
「ちぇ。つまんねー」
俺は二組をちらりとのぞく。
「ふーじーわーらっ」
ひとりきりの教室の窓際に彼は座り、物思いにふけっていた。
この席って・・・いつもの藤原の席じゃないよな。
「藤原・・・今日席替えしたのか?」
「あっえ?っち、千秋?」
どうやらいまさらおれの存在に気づいたらしい。
「い、いや、俺窓際好きだから・・・」
「聞いてないし。」
机からポトリと何かが落ちる。
ノートだ。
名前が書いてある。
「・・・石見遥」
「いいいい、別にそういうわけじゃないぞ」
「だから聞いてないってば」
なーるほど。藤原って石見のことが好きだったんだ。
ま、藤原とあいつは中学のころからずっとクラスも一緒だったらしいしな。
それに石見ってそこそこかわいいし。
「こここのことは内緒にしてくれよ!」
「はいはい。」
藤原が恋かあ・・・。
面白いといえば面白いがどこかうらぎられた気分だった。
こいつなら恋とは無縁と思ってたのに。
俺はまだ恋を知らない。
彼女が居ないと言うと必ずといっていいほど意外といわれた。
今恋してないのっておれだけなんだなあ・・・。
これって病気なのかな・・・。
それとも「実はホモです」とか。
だめだ。絶対ありえない。
あるとしたら藤原なんだろうけどもぶっちゃけちゅーとか絶対したくないし。
田村聖尋樹?あいつは面白いけど問題外だ。
OKといったら即日犯されそうだし。
あの性欲の塊ならきっと溜まりさえすれば動物ともやるだろうから同じ人間なら大歓迎だろう。
その前になんてこと考えてるんだおれ!!
とりあえずホモはないから一安心だ。
それでも恋をしていない自分にどこかあせりと憤りを感じているのは確かだった。
いよいよ恐怖の日曜がやってきた。
適当に安い店で買った血のペイントの白のYシャツとジーンズを着込んで駅へとチャリをだらだら走らせる。
すっぽかすのもありかと思ったが田渕が怖いからやめた。
もしかした鳴海あたりが心配してくれるかもと思ったが今日までメールのひとつもくれなかった。
当たり前だ。鳴海は基本干渉を嫌う。
あーあ。友達って何だろ。
クラスで一人でいたほうがまだましなのかもな。
でも一人っていうのは必ずといっていいほどみなの嫌悪の対象となる。
言い換えれば孤立。
所詮人間も動物。
群れを作らなければ快適に生きることができない。
そんな馬鹿みたいなことをぐちぐちと考えていたら気づけば駅の待ち合わせ場所にぽつりとたっていた。
ろくでもない。
ホント、最悪だ。
「・・・千秋君?」
流行りものの服を着て、髪をおしゃれなゴムでまとめた山崎が立っていた。
「山崎?」
・・・こいつも女なんだなぁ。
おれ、こんなテキトーな格好でここにきちゃって少し申し訳ない。
「どこ行く?」
とにもかくにもここはさっさと済ませて帰りたい。
サザエさんでもみてとっとと寝たい。
「あのさ、千秋君・・・」
「何?」
「あたし、今あんまお金持ってないんだけど何円必要なの?」
「は?」
山崎はバッグから財布を取り出す。
「お金、ほしくて呼んだんだよね?」
おれは思っても見なかった展開にただただこうちょくすることしかできなかった。
まさか・・・
あの恐怖のまなざしはそういうことだったのか!
おれってそんな怖い奴に見えるのかな?
「しまえよ。おれそんなのしないし。」
「・・・ごめん」
山崎は黙って下を向いた。
きっとこいつはおれのことをあまり好いていない。
おれだってそうだ。
どうしてこんなことになっちまったんだろ。
・・・これは誰が損をして誰が得をするんだろ。
損をするのはおれと山崎?
得をするのは田渕?
そういうのは非常にムカつく。
田渕なんてくそ食らえだ。死んじまえ。
こっちだってお互いだらだらしていたい休日を返上してまでここにきてるんだから
せいぜい楽しんでやる。
「山崎」
「ん?」
「スタバ行かね?おごるから」
「実はさ、おれ恋したことないから誰かに手伝ってもらおう!ってことでいかにもフリーっぽい山崎にデートをお願いしちゃったんだよね」
山崎を傷つけないよう適当に嘘をつくおれ。
いったい何やってるんだか。
「いかにもフリーっぽいって・・・そりゃないっすよ。」
山崎はため息する。
「フリーだろ?」
「フリーだよ。」
「ほら」
ちぇっと山崎は悪態をつく。
「恋したこと・・・ないんだ。千秋君って。」
「そうだよ。なんか悪い?」
「別に」
山崎はニヤニヤしながらコーヒーを飲み干す。
何こいつ。何かむかつくし。
「で、千秋君。次どこいこっか。カラオケ?ゲーセン?どうする?」
「ゲーセン」
即答。
年頃の男女がふたりきりでカラオケって。それ絶対カップルがやることじゃん。
相手が山崎なら死んでもごめんだ。
友達ならともかく恋人としてのカテゴリーには一生かけても奴が入ってくることはないだろう。
そう。友達なら割とオッケーだ。こいつ。面白いし見てて飽きないし。
明日田渕にそういってやろう。