「千秋ちゃん、これやろ」
ゲーセンに入って即山崎が指差したのは某太鼓ゲームだった。
「別にいいけど・・・」
「やったぁ」
素直に喜ぶ山崎を見てふいにこみあげる笑いをおれは必死でこらえた。
数分後・・・
「強っ!!!あんた何もん?」
「ぶあかめっ!おれに音ゲーで勝負挑もうなんて1万年早いわぼけがあっ!」
そう。おれは人生で一度も音ゲーで負けたことがない。
自分で言うのもあれだけどめちゃめちゃ強い。
「悔しい!千秋君、つぎこれやろうよ」
次に山崎はギターゲームを指す。
「こりないやつだなぁ。いいぜ。やってやるよ」
数分後・・・
「ぜーぜー・・・」
「まあよくやった方じゃねーか?今までおれに勝ったやつとか見たことねーし」
「それを早く言って!」
こりないのかそれともただの負けず嫌いなのか、はたまた意表をついてただの馬鹿なのか。
奴はその後何度もおれに数々の音ゲーに挑み見事に敗れていった。
「じゃ、山崎さん。つぎ何やります?」
「まだやんのー?」
山崎は顔をくしゃくしゃにゆがめ本気で嫌そうな顔をする。
「うそだよ。」
すいません。本気でした。
「カラオケ行かない?」
「いく!」
元気のいい奴。何だよ。この変わりよう。
ま、こいつはいいとこまでいっては友達カテゴリーで精一杯だし。
一緒にカラオケいって何かがはじまるとは思えない。
何の問題もないよな。
そんなわけでおれ達は似たり寄ったり互いの趣味(漫画を中心に)語り合いながら
駅前のカラオケ屋へ向かうために駅前通りを歩いていた。
「あ、千秋?」
最悪だ。
目の前に最もおれにとって嫌いな奴が。
嫌悪の的である高橋永久があらわれた。
藤原も居る。
「永久君?それにフージィも!!」
「え?山崎さん?」
永久は目をぱちくりさせ、おれと山崎をみくらべる。
「偶然だね」
「そうだね」
永久は山崎の投げかけに答えつつもおれのほうをまたチラリと見た。
こいつ・・・惨めなおれを笑っている・・・
「言っとくけどさ」
「?」
「これは田渕の悪ふざけだ。誰が好き好んでこんな女と一緒に歩くもんか。」
「千秋?」
おれは走ってその場から逃げた。
どうにでもなっちまえ。
そう。どうにでも。プライドさえ守れればそれでいい。
おれはあいつにあざ笑われることをこの世で最も恐れているから。
だから。
それさえなければ
何があってもかまわない。
何があっても・・・・・
「何やってんだよ・・・おれ・・・」
おれはあたらしい友達を即日で失くした。
もうきっとあいつは泣いちまって、もう二度とおれに話しかけてはくれないだろう。
山崎がいいやつってわかったのに・・・。
案外馬が合うやつって知ることができたのに・・・。
なんであれだけで・・・永久に会っただけで・・・あんなことをいっちまったんだろ・・・
あんなこと、思ってもいなかったのに・・・
「ほんとだよ」
顔をふくらまして立っていたのは山崎亜紀だった。
意外にも奴は一滴の涙も流してはいなかった。
「知ってたよ。」
山崎はおれを近くにあったベンチに座るように促す。
「・・・何を」
「田渕の悪ふざけ。」
ああ。そうなんだ。
「あたしがあんたたちに馬鹿にされてることも。ちゃんと知ってる。
まあお金とかばかなこと言っちゃったけどホントはうすうす感づいてた。」
「ごめん」
「あやまんなくていいよ。だって。しょうがないじゃん。あたし、実際あんたたちが言ってるみたく病気だし。」
「でもな、山崎・・・」
「何」
「おれは・・・今日一日山崎と遊んで楽しかった。本当だ」
山崎は驚いたように口をぽかんと開ける。
おれは、泣いていた。
「ちょっ・・・千秋君、何泣いてんの?」
「え?・・・別に。あれ?なんで?」
「ほらあたしじゃあるまいし。泣かないで」
山崎はバッグを開きハンカチを手渡す。
「ねえ。千秋ちゃん」
「ちゃん?」
「いいじゃん今日から千秋君は”千秋ちゃん“。」
返事を返そうとしたがさえぎって彼女は続ける。
「さっき言ったこと。嘘じゃないの?」
「さっきって?」
「楽しかった・・・って言ってくれたこと・・・」
「嘘じゃない!信じてくれ!」
「なら・・・」
山崎は立ち上がる。
夕陽のオレンジを浴びて伸びをし、
「ありがと」
とびきりの笑顔で彼女は笑った。
・・・かわいい・・・
不細工だと思ってたのに。
細目と八重歯がなぜかとても美しく見えた。
ああ。こいつもうつくしいものだったんだ。
そう思った瞬間、おれの全身の血の巡りが早まり、心臓が音をたてて鼓動した。
まさか・・・
これが・・・恋?
「さ、千秋ちゃん。思ったより遅くなったしもう帰ろ。」
「あ、ああ。」
「千秋ちゃんさ、恋、してないんだよね。」
「あ、ああ。まあ」
いいえ。さっきしました。
なんていえるわけもない。
ってゆーかさっきのはまぐれだろ。
だってぜんぜん今はときめいたりは・・・
「あのね。あたし、恋してるんだ」
「・・・そうなんだ・・・誰?」
再び鼓動が早まる。
誰?誰だよ。
おれ・・・だったらうれしいんだけど。まずないだろう。
あーなんてこと考えてるんだ!ばか!おれのばか!!
違う。絶対おれがこいつのことなんて好きになるわけ・・・
「永久君」
全身が凍りついた。
背中にゾクゾクと寒気が走る。
胸が痛みを感じるほど締め付けられる。
確定だ。
おれはこいつに恋をした。
もう言い逃れはできない。
そしておれはおれ自身の不幸をのろった。
よりによってこいつを好きになったことなどではない。
よりによって「永久に恋をしているひと」に恋をしてしまったことだ。
きっとおれに勝ち目はない。
なぜなら奴はおれのものを奪う。
しかしおれは奴から奪い返せたものが何もないからだ。
途方にくれたまま、知った瞬間に奪われた、いとしいひとに別れを告げ、
M駅の高架にぼうっと立っていた。
「千秋・・・心配したよ。どうしたの?」
肩をたたかれ、うしろを振り向く。
「永久・・・」
「山崎さんと・・・どうだった?」
「大丈夫・・・だった。」
「千秋、災難だったね。」
「?」
永久は顔をゆがめる。
「だって。田渕に仕向けられたんでしょ?山崎さんと一緒に遊ぶの。
まあ山崎さんってあたり田渕っぽいけど・・・ほんと、かわいそう・・・」
か・・・わ・・・い・・・そ・・・う・・・?
「ふざけんな!」
「っ?!」
おれは永久の胸倉をつかむ。
「誰がかわいそうだ!あいつは・・・あいつは・・・」
お前のことが・・・好きなんだぞ・・・
今のおれと同じようにかなわない恋に苦しんでるんだ。
いや、あいつはきっとかなうと信じてひたむきにがんばってるんだ。
それなのに・・・
それなのに・・・
お前はそうやって・・・そんな風に・・・あいつを見てるなんて・・・
ああ。そうさ。おれは知っていた。
どうせおれが貸したクラシックのCDも聞かずに失くしたんだろ?
おれがずっと仲良くしてた藤原も・・・お前がはいってきて・・・
奪い取って親友となのりはじめた。でもろくに大事にしてないんだろ?
おれがずっと守ってきた仲間内で一番もの成績も・・・
お前はちょっと勉強しただけですぐに抜かして特進クラスに入って。
一生懸命なおれを馬鹿にしたかっただけだろ?
おれはこいつの愚かさをしっていた。
「最低だ!お前なんかしんじまえ!!」
「ちょっ千秋?くるし・・・」
おれは気づけば永久の首に手を回していた。
そう。このままこいつは死ぬべきなんだ。
こんな奴、こんな最低なやつは・・・死んでしまえ!居なくなってしまえ!!
「千秋!何やってんだよ!!!!」
買い物袋を抱えた藤原がかけてきておれを突き飛ばす。
「ってぇ・・・」
背中をぶつけた。
鼻血が垂れてきて白いワイシャツの血のペイントを本物の血が彩った。
「藤原も・・・こいつに染められちまったんだな。」
「何言ってんだよ!」
「・・・千秋?」
永久は目を丸くする。
「こいつは悪だ!こいつはいつかおれ達を不幸にする。
知らないぞ。お前だってこいつに大切なものを奪われかけてるくせに。」
そう。石見遥は永久のことが好き。
隣には回ってないようだがうちのクラスじゃもっぱらのうわさだ。
「千秋!いい加減にしろ!」
藤原が絶叫する。
雨が・・・降り出した。
ほとんどひとが居なくなったM駅の高架。
藤原は馬乗りになっておれを殴った。
「ふざけんな!悪いのはおれじゃない!何度言ったらわかるんだよ!」
おれは藤原の腹に蹴りを入れる。
藤原がひるんだ隙におれは永久に掴みかかる。
「永久!畜生!!この悪魔!!」
「やめて!やめてよ千秋」
雨はやまない。
ますますひどくなる。
バシャバシャ
バシャバシャ
水を蹴り誰かが進む音。
パシンッ
痛み。
強い、痛み。
「山崎・・・」
「ハァハァハァ・・・何やってんの・・・」
「おれはただ・・・」
お前を・・・悪魔から守りたかっただけなんだ・・・
「永久君に手を出したら許さない!!」
嫌悪の目。
間違えた正義・・・
いや、間違えた正義を持ったのはおれのほうだ。
こんなに人をひきつけるのだから。正しいのは永久のほうだったのだ。
そうか。
おれが間違えてたんだ・・・。
じゃあ・・・
おれは・・・どうすれば・・・
---マチガエテナンカ、イナイ
誰かの声だ。
誰なんてかまうもんか。
どうしてだよ。間違ってんだろ?おれは悪者なんだろ?
---タカハシトワ・・・悪魔ノ・・・影ノ・・・ケシン
影?なんだよそれ
---影ハ・・・人ノ害ニナルモノ・・・タカハシトワ・・・殺セ
無理だよ。
山崎も藤原もこいつを・・・
---ダイジョウブダ。ワタシトヒトツニサエナレバ
ひとつに?
おれは高架下を見下ろす。
そこには美女が微笑んでいた。
ひとつに・・・・
悪くない。
永久をころせるんなら・・・
だけど山崎が・・・
永久がいなくなったら・・・
---オマエノホシイモノモ全テクレテヤル
そうか。
なら・・・
賭けてみようか。
「わかったよ。お前ら。おれは不要なんだな。それなら・・・」
「千秋?」
永久の叫び声。
おれは手すりに足をかける。
「馬鹿なことはよせ」
と藤原。
「ばいばい」
「いやあああああああああああああああああああああ」
おれは空を飛ぶことにした。
気持ちがいい。
山崎がおれだけをみている。
永久が目をまるくしてくちをパクパクしている。
藤原は今日ばかりはおれを心配する。
ざまあみろ
---チアキランオマエノノゾミ、ワタシガカナエル
「ああそうしてくれるとありがたいよ。」
でもな、
「もう疲れちまった。」
そう
ほしいものが、美しさが手に入らないのなら
おれに生きる価値はもはや残されていないのだ。
・・・だから・・・
「何にもいらない。おれを・・・休ませてくれよ」
---ワカッタ
おれは目を閉ざした。
雨は止んで血だらけになった朧月がおれを照らした。
罰ゲーム
そうだ。これは高橋永久をころすために仕掛けたわな。
永久はおれ達を不幸にするんだから。
おれこそ正義なんだろ?
なあ・・・山崎・・・・
END

あとがき
だいぶ前にプロットはあがっていたのですが(夢の一話より前に書いていたので事実上のプロローグでもあります)
なんて不幸で報われない話なのでしょうか。自分で書いててそう思ったり。
でも千秋!大好きだよ(うそつけ)
さて、この話を境に千秋編がスタートです。
それこそ悪魔に命を売ってしまった千秋と影師たちの戦い。
そして永久の知られざる秘密が徐々に暴かれていくのです。そのテーマは影の章までずるずるとひきずるつもりですが。
でもひとつだけいえることは決して永久はもちろん千秋が悪ではないこと。
この世界にはあくと正義の境界線は皆無に等しいのです。
そういう意味で、千秋をせめないでください。
かれはあの日を境に永久に恐怖を覚えるようになっただけなのですから。
やさしさゆえの臆病なのです。
それに藤原や山崎にも彼を救えなかったつみはあるわけですし。
とにかく彼らの物語は彼らなりの正解を求めてさらに続いていくのです。
最後になりましたがミズキ、修二のファンの方、もしいらしたらすいません。
次回からは元どうり活躍しますんで。
それでは
2006 5月末日 成塚