<side刀@高橋永久>



頭にできたタンコブをさすりながら、もう散り始めている桜を眺めた。

「永久、大丈夫?」

同じ部活の田渕 貴史がタオルで汗を拭きながら言う。

「・・・無理・・・」

この痛さは尋常ではない。

「お前のクラスの担任ってそんなに厳しいの?」

「お願いだからその事には触れないで。」

「?」

田渕は不思議そうに首を傾げた。



<sideξ 田村聖尋樹>



「“あれ”はマジ傑作だったよな」

修二はまだ腹を抱えて笑ってる。

あれから何時間経ったんだよ。

実は高橋が倒れた後・・・



「田村君!田村君!!」

亜紀のボケはまだ続いていた。

これはもう確信犯だ。

「永久!しっかりしろ!!」

色白は俺の頬を叩く。

「お前がな!」

「高橋君!怒るとニキビ増えるよ!!」

「そうだそうだ!」

色白&亜紀の即興コンビの火の粉が遂に俺に降りかかった。

「お前ら俺で遊ぶな!」

息も合ってるし、この際お前ら付き合っちまえばいい。

「永久ー」

一方、ひとり真面目に高橋の心配をしていると思われたチビは高橋の大事な部分を鷲掴みしていた。

「おっおい!お前、どこ触ってんだよ!」

色白はしどろもどろにチビをなだめる。

「キャッ」

亜紀は手を覆って俺の傍らに寄る。

「寄るな!顔笑ってんぞ。」

「あのー・・・」

大混乱の三人をチビが一気に沈黙に変える。

「ただ寝てるだけみたいですよ」

チビはボソリと言った。

俺たち三人は顔を見合わせる。

そして、

「「「何でわかったのーーー?!」」」

三人揃って仲良くユニゾン。

ひょっとして。俺たちってトリオだったの?!

「しゃーない。運ぶか。」

俺は高橋の脚を持ち上げる。

「運ぶって・・・どこにスか?高橋君。」

「山崎。いい加減にしないとてめぇの家のポスト納豆づくしにすっかんな。教室だよ。教室」

「ミズキー?」

修二がひょっこりドアから顔を出す。

「あ、丁度いい。オイ、修二。ちょっと悪いんだけどコレ、一緒に二組まで持ってってくんない?」

「いいけど・・・随分重そうな荷物だね。」



そして数分後・・・



ガバッ

高橋は机から突然跳ね起きた。

・・・がしかし。

「い゛ッッッッッッッッ!!」

担任が奴の頭の少し上に構えていた出席簿に見事激突。

そして高橋は撃沈した。

もちろんクラス中が大爆笑たっだ。



そして今に至る。

「あれはホンッとありえねーよなぁ。」

「つーかあのあと大村に二発も殴られたもんなぁ。」

俺も笑いながらベランダの下を見た。

「おっ!噂の高橋君じゃん。」

今年はクラスも離れた現代の番長・田渕とテニスコートで何やら話をしている。

「田渕と仲いいんだ・・・意外。」

しかもあの田渕と対等に話している。

昼の色白よりもだ。

いや、色白の場合は逆に高橋と仲がいいからああなんだろうけど。


<side刀@高橋永久>


「さ、練習やろっか。」

田渕はボールを二つ取って片方を僕に手渡す。

僕はメガネを通さない視界に写ったぼやけて歪んだ校舎を眺めた。

ああ、きっとコレが僕の居る世界の本当の姿だ。

―――どうして君のメガネは割れたの?

夢の中のあの人の言葉をふと思い出した。

「知らないよ・・・知るわけないじゃん。そんなの!」

僕は見えない何かを振り払うかのように全力でラケットを振り下ろした。



<sideξ 田村聖尋樹>



「ああああぁれ、マジで高橋?本物?チャックの中は違う人とかじゃないの?」

「高橋君だよ。当たり前じゃん。」

「うぅう嘘や!あぁぁれ、めっちゃ運動神経ええやん!」

「ミズキ、それ関西人の前で言ったら殺される。高橋君はね、中学の頃はそりゃあもう大層強い選手だったんだよ。」

そういえば修二も中学の頃は軟式テニス部だったんだっけ。

ベランダの下で一心不乱に弾を返す高橋の姿はついさっき担任に出席簿で殴られていた鈍ちんな男とはまるで別人だった。

「超かっけー・・・」

無意識にもれる言葉。

まるでポパイだ。またはこ○かめの本田?

ラケットを持つと人が変わるんです。

俺には特技なんてそう無いから。

そういう奴が時々羨ましくて、憎らしくも思える。

でも高橋を取り囲むこの特殊なオーラとこのハッスルっぷり。

ちょっと気になる存在だ。

気になる奴っていったら実はもう一人居るんだけどそれはもう少し後で話そう。

「なぁ、下で高橋を生観戦しね?」

「言うと思った。ね、スゴイだろ?だけどごめん!」

ガラガラッ

立てつけの悪い扉を開けて二人きりの教室に入ってきたのは・・・。

「亜紀じゃん・・・」

「そーゆー事だから。ゴメンね」

どういうことだよ!



<side刀@高橋永久>



「お、ミズキじゃん」

ペットボトルに手をかけたとき、田渕は突然立ち上がり、

コートの向こうのフェンス越しにぼんやりと見える人影に手を振った。

「誰?ミズキって。・・・彼女?」

「ちげーよ。ミズキはバリバリのオスだよ。」

「たぁーぶぅーちぃー!」

少しかすれた特徴のある声。

「ぇ・・・」

その声を聴いた瞬間、全身の力が抜け、激しく胸が痛んだ。

「どうしたんだよ?」

「高橋を見に来た!」

“彼”はどんどん僕に近づいてくる。

「っぁあ!!」

胸の痛みは治まることを知らず、どんどん激しくなっていく。

ついに立つことすら困難になってきた。

「どうした?高橋・・・」

この声は・・・

今日見た人だ。

そして僕の夢の中の・・・。

「うわぁっ!」

僕の頭に強烈な痛みが走る。

夢の中のあの強い目の男、今日見た新しいクラスの・・・ミズキって名前の男、

そして―

―――覚悟しとけよ!

昨日の公園で怪物に襲われた僕の前に立ったあの姿が僕の脳裏を駆け巡った。

―――昨日、君は何を見た?

夢の女のセリフが頭の中にポンと飛び出てくる。

そう、彼と怪物。

僕が見たのはあの、まるで人間の汚いものをさらけ出したかのようなおぞましく、醜い怪物だ。

夢なんかじゃない。僕は確かに、この目でそれを見た。

僕の意識は途絶えた。


<sideξ 田村聖尋樹>


バタリ

高橋は遂に倒れた。

「高橋!!」

俺は本日2度目の眩暈の起こった眠り姫を慌てて抱き起こした。



<side刀@高橋永久>



「体、弱いの?」

「別に・・・」

隣に座っているのはミズキ?君。

何故か初対面の彼に購買でジュースをおごって頂いた。

「なぁ高橋。」

「あのさ、昨日俺を見なかった?」

瞳に写るのは彼の強い、強い目。

僕は確かに彼を見た。

おまけにかなりの頻度で夢にまで出た。

「見た・・・よ。・・・ミズキ君が出てくる夢まで見た。」

「どんな?」

強い目が更に大きくなる。

この目の前ではそう嘘も付けないだろう。

「・・・ミズキ君と・・・変な怪物が戦う夢。」

ミズキ君は口をポカンと開けてしばらく僕を見つめていた。

「・・・前からよく見てたんだ。ミズキ君と顔の整った男と、小柄な女が出てくる夢を。」

「お前・・・」

ミズキ君が何かを言いかけたそのとき。

ドンッッ。

校舎の方で爆音がした。

「♪♪♪」

それとほぼ同時にミズキ君の携帯が鳴った。

彼は舌打ちをし、ぼそりと何かをつぶやいた。


<sideξ 田村聖尋樹>


開いた口が塞がらないとはまさにこの事だ。

高橋が何度も俺の夢を見ていただって?!

あとの二人はまず間違いなく修二と亜紀だ。

コイツはエスパーなのか?!

いや。きっと能力者だ。

なにせ『影』を見てるんだから。

興味本位で聞いてみたことが思わぬことになっちまった。

一つの餌で大物を大量に釣った気分。

「お前・・・」

影師って仕事、やらないか?

そう言おうとしたら。

いいタイミングで『影』がやってきた。

畜生。今超いいところなのに。

まあいい。適性検査だ。

「永久、一緒に来い。」


<side刀@高橋永久>


「あっ!えぇっ?ミズキ君??」

ジャージの襟を掴まれて僕はぐいぐいとミズキ君に引っ張られていった。

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