<sideξ 田村聖尋樹>
“影時くん”によると今回の『影』は人に憑くタイプらしい。
あの音はテニスコートの方からしたみたいだ。
高橋の手を掴んだまま駆け足でコートに向かうとだんだんと人影が見えてきた。
色白で細身のスラリとした体に切れ長の目。
右手にはラケット。
田渕だ。
「田渕・・・大丈夫?」
高橋は俺の手から逃れ、奴に一歩一歩近づいていく。
「危ない!」
俺は直感で危険を察知し、叫びながら、高橋のジャージの袖を掴んだ。
しかし
ゴンッ
鈍い音がグランド中に響き渡る。
田渕が右手に持ったラケットが振り上げられ、その金属部分が高橋の頭を思い切り打ち付けたのだ。
「っ・・・ぶ・・・ち・・・・?」
「高橋――――!!」
高橋は地面にバタリと倒れ、はたりと手が落ちた。
「田渕・・・」
「・・・ヲ・・・コセ・・・」
うつろな目をして一歩、二歩と迫ってくる田渕。
「んだよ・・・・」
「トワ ヲ ヨコセ!!!」
「うわぁ!!」
ラケットを振り下ろす田渕を、俺は高橋を抱き上げ、ギリギリでかわした。
<side刀@高橋永久>
重たいまぶたを上げた。
今日、何回こんな事があっただろうか。
人はついていないときはひたすらついてない。
「永久」
田渕の声だ。
「田渕・・・?」
目の前に田渕君が現れ、彼はゆっくりと首を横に振った。
「ちがうよ」
「え?田渕じゃないの?」
「ああ。」
今度はゆっくりと頷いた。
「俺は『光』。この世界の正の感情の結晶。故に本当の姿は無い。」
彼は手のひらを自分の顔に乗せ、それを離す。
今度は彼の顔が藤原になっていた。
ああ、これは夢だ。夢なんだ。
「田村聖尋樹はどうだったか?」
「ミズキ君・・・ですか?」
「夢で散々見ただろう。しかも昨日も会った。どうだった??」
「うっ・・・」
胸が苦しくなり、頭が割れるように痛み出す。
頭の中に夢で見たミズキ君や昨日のミズキ君の映像が大量に流れ込んでくる。
僕は開かない口を開いて息絶え絶えに言った。
「・・・強い人でした。」
初めて夢で見たときから解っていた。
彼は強い。僕には無い強い目に、強い拳に、強い心がある。
「そうか。ならお前も強くなりたくないか?」
「・・・僕は・・・なれない・・・」
そう、あの強さは臆病な僕には持つことが出来ないものだ。
「質問を変えよう。お前は・・・変わりたいか?」
僕はハッとした。
それがずっと僕の求めていたものだったから。
「変わり・・・たい!!」
胸の痛みと頭痛が止んだ。
親友の顔をした『光』はにっこりと優しく笑い、手のひらを顔に当てミズキ君になった。
「それじゃあ奴に目覚めてもらうとするか。起きろ。“永遠”」
光が俺の額に人差し指をポンと乗る。
「え・・・?」
目の前が真っ暗になった。
<sideξ 田村聖尋樹>
「ふぅ〜なんとか撒いた・・・。」
半年以上前、亜紀が一人で泣いていた記念館裏の壁にもたれて俺はホッとため息した。
高橋の体は小柄で華奢な見た目と違い筋肉質でしっかりとしていた。
「スポーツマン体型ってヤツ?うわーめっちゃすげぇ!!」
コイツの意識が無いことをいいことに俺は腕や足をつねったりして遊んでいた。
「ってんなことしてる場合じゃないっつーの。暇人みたいじゃん」
そうだ。これからどうするか考えないと。
「ミズキ!高橋!!」
「大丈夫?!」
修二と山崎が駆け寄ってきた。
助かった!!内心そう思った。
「心配したんだぞ。どこ行ったんだって。」
修二がいつになく真剣な形相で言う。
顔にはいつもの笑顔が無い。
「悪ぃな。ちょっと色々あってさ・・・」
「まあ高橋君が無事ならいいんだけどぉ。」
亜紀は不適な笑顔を浮かべ髪の毛をくるくると指に巻いていた。
妙な違和感がした。
「俺じゃねーのかよ!!!!あ、でもよくこの場所が解ったな。」
「それは・・・」
修二がギロリと目を見開いた。
背中が汗ばむ。
「ノウリョクシャ ノ ニオイガ シタカラ」
ガッ
「くはぁ!!」
亜紀が俺の腹に蹴りを入れる。
二人の目は田渕と同じく虚ろになっていた。
「まさか・・・お前ら・・・!!?」
辺りを見回した。
気付けば俺達は虚ろな目をした生徒たちに囲まれていた。
やかましく俺のケータイの『AM11:00』が鳴り響く。
「わかってるっつの。」
永久を抱きしめる手が自然と強くなる。
「畜生ぉぉ!!」
俺は中に手をかざし銃を出した。
しかし片手が高橋を抱いていて手が開かないので紅い弾を入れることができない。
バキュンッ
「うっ!!」
音と共に腹部に激痛が走った。
永久の頬に真っ赤な血が飛ぶ。
これは・・・俺の血だ。
「タカハシトワ ヨコセ オマエ ジャマダ」
修二を見た。
ヤツの右手には小さな銃。
やられた。あの銃をいつもヘボイって馬鹿にしてたのに。
俺はそのヘボイ銃にやられちまったんだ・・・。
ああ。痛みが止まらない。
血がどんどん流れてく。
もしこのまま高橋が奴らの手に渡ったら・・・。
高橋は・・・俺は・・・どうなっちまうんだろう・・・。
薄れてく意識
もうだめだと思った そのとき
「テメェ。やる気有んのか?」
耳元で誰かがささやいた。
低くてドスの効いた声。どこかで聞いた事があるような・・・。
幻聴?
それにしても誰の声だっけ・・・。
温かい光が降り注いだ。
みるみるうちに俺の傷は癒えていく。
ゆっくりと顔を上げた。
声の主は『彼』だったのだ。
「高橋・・・」
「ウゼェ。負け犬は引っ込め。」
ヤツは右手に構えた日本刀を俺の咽元に向けた。
「まっ?!」
「さぁ。お前ら。たっぷり遊ばしてくれよ?退屈してたんだ。」
高橋は刀を構えていやらしく笑った。
コイツ・・・怖い・・・。
「ヨコセ ヨコセ・・・」
「聞こえねーよ!!」
ジュバッ
高橋は日本刀で虚ろな目の生徒達をどんどん切りつけていく。
生徒達はバタバタと倒れていった。
そして
「匂いで解る。あんたが親玉だな?」
ヤツは田渕の胸倉を掴む。
「ヨコセ トワ・・・ヨコセ・・・」
田渕はラケットを高橋の腕に叩きつける。
「痛くもかゆくもねぇ。お前にはうちの王子がいつもお世話になってるみたいだかんな。たっぷりお返ししてやるよ!!」
ブシュッ
高橋は田渕の額に刀を突き刺した。
田渕はそのまま前に倒れた。
高橋は刀を抜いて地面に突き刺し、俺のほうへ向き直る。
「!!」
ヤツはにっこりと笑いながら刀についた血を舐めた。
寒気がした。
俺は・・・コイツが・・・怖い・・・
「俺はトワ。うちの王子の裏の人格だ。負け犬君。悪いけど王子にちょっかい出さないでくれる?
アイツはこーゆーの嫌いだからさぁ。」
「だけど!!」
「いいだろ。今まで道理三人で仲良くやってりゃさぁ。な?な、負け犬。」
返り血のべっとりついた顔でせまられる。
恐怖で腕や足が震えた。
「俺は!!俺は・・・諦めない!!」
「熱血だなぁ。まぁいいや。絶対後で後悔すっかんな。俺は助けてやんないぞ?」
トワは高笑いをして突然意識を失い地に倒れた。
倒れていた生徒達の傷口から黒い煙が噴き出しそれが全て空に集まり、光の雨が降り注いだ。
生徒達の傷口はしっかりと塞がっていた。
「これが・・・コイツの能力・・・。」
俺は永久からすこし距離を置いた。
<side刀@高橋永久>
ウザイ。
本気でそう思った。
僕は保健室の固い布団を頭まで被る。
「ホントに何も覚えてねーの??」
「うん」
ミズキ君と購買部で話してからの記憶が無い。
ってゆーかどうしてミズキ君と話したんだっけ・・・。
「刀だよ。ホラ、こーやって手をかざして・・・。」
この人、妄想癖まであるんだ・・・。
今後近づかないようにしよ・・・。
僕はベッドから起き上がりリュックを背負って逃げるように保健室のドアの前に立った。
「そんで人を切ってさぁ。」
「うるさい。人違いだ!」
「だからホントにっ・・・って帰んじゃねーよ!!」
「無理」
ミズキ君は頭を抱えてため息していた。
ため息したいのは僕のほうだ。
僕は・・・本当に何も知らない・・・。
<sideξ 田村聖尋樹>
「見たかったなぁ。高橋君の奮闘っぷり。
よりにもよって『影』につかれちゃったなんて。ハァ。ついてない。」
「ああ。マジで凄かった。つーか怖かった。」
「で。修ちゃん的には高橋君はどうなの?」
「欲しい!!絶対欲しい!!ミズキは?」
「・・・俺も。だけどありゃソートー嫌われちまったぞ。亜紀は?」
「大歓迎。」
「・・・」
なんだか今度渦にさらわれてやってきた人物はかなりの厄介モンみたいだ。
あの・・・冷たい目。
あいつの心の闇は並みの深さじゃないはずだ。
あれほど怖いものを見たのは初めてだ。
これから俺達はどこへ行くんだろう・・・。
夢の国か
影の中か
導くのは運命の渦次第だ。
#1 END
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