<sideξ 田村聖尋樹>

人の目は怖い。

あんたもその恐ろしさは知ってるだろ?

それは必ずしも真実を映し出すとは限らないんだ。

今までも些細な誤解から俺達は酷い目にあってきた。



だから今回の事も本当はどちらの目が真実を映していたのかはわからない。

もしかしたら二つとも真実は映せなかったのかもしれない。

真実は本人にしか解らないんだ。

いや、本人にも解らないのかもな。

真実は神のみぞ知る

なんて。あながち嘘じゃない。



#2 二つの目



「なあ永久ぁ〜。」

電車の中で彼は早足で俺から逃げようとする。

「いい加減にしてよ!」

彼は向き直り、ヒステリー気味の声で俺に言う。

「いいじゃんかよ。ダチなんだし。」

俺の笑顔にあきれたのか、それとも腹を立てたのか、彼は頭を抱えて一層声を大きくした。

「誰が!いつ!そんな事言ったの!!大体、田村君、違う電車じゃん!!」

「いいの。今からダチの家に行くから。」

「誰の?」

「永久の」

ガシッ

俺は永久に足蹴にされホームに放り出された。

「永久ぁ〜母ちゃん紹介してくれるって言ったじゃん!!」

「うるさい!」

ドアが閉まる前のベルが鳴る。

「永久くーん!!」

永久は俺に背を向けたままにつり革に手をかけた。

ドアは閉まった。

電車と永久はゆっくりと俺の前から逃げていく。

「永久ーテメー!!覚えてやがれよ!!」

永久は俺のほうを見、おそらく「死ね」のニュアンスの言葉を吐いていた。

可愛そうな俺は無駄骨となった電車の切符を握り締めてM駅の構内へ戻ることにした。

永久をスカウトしたあの日から2週間が経った。

相も変わらずヤツはあの事件の存在を否定し続けている。

しかもさっきみたく俺を拒み、避けるようになっちまった。酷い話だろ?

ん?さっきのは俺が悪いってか。



「ぁ・・・」

「うぃっす・・・」

構内で見た顔にばったりと会った。

三組の、あの細身の色白だ。

「えーと・・・名前・・・なんだっけ?」

永久の事で山崎と散々バカ騒ぎしたってのに名前を聞いていなかったみたいだ。

「チアキ・・・っス」

「チアキ?かわいい名前じゃん。俺はミズキ。よろしくな」

俺は満面の笑みでそう答えた。

チアキなんつったらポケビで育った俺には某歌手の顔しか思い浮かばない。

「あ、ミズキ君。背中汚れてる・・・」

「ん?ああ。これ?これはねぇ・・・さっき永久に・・・・」

「永久?」

チアキは微かに顔をしかめた。

「大丈夫だった?」

「え?ま、まぁフツーにじゃれ合いってゆーか・・・何てゆーか・・・おふざけだから」

少なくとも俺は・・・な。

「なら・・・いいッス。それじゃ、俺は・・・」

チアキは紺のサブバを背負いなおす。

「チアキ、今からどこ行くの?」

「え・・・・K楽器店に・・・。」

「マジで?!俺も俺も!!」

俺はチアキの肩に手を回してポンポンと叩く。

一度会ったらみんな友達。ステキな主義だろ?

「あの・・・・」

チアキは大きな目を困ったように向ける。

「何?お腹痛いの?」

「どうして・・・離れてくれないんですか?」

「一緒に行かない?」

「イイッすけ・・・」

「よーし決まり!よろしくな☆」

俺はチアキにニッコリと微笑みかけた。

「ミズキ君・・・近い・・・」

彼は迷惑そうに苦笑いした。

「あのさ」

「うん」

チアキは適当にロックバンド用の楽譜を出してパラパラと見たりリズムを取ったりしている。

「永久ってどんなヤツ?」

永久という言葉を出した瞬間、チアキの肩がピクリと動いた。

気のせいか?コイツ、永久の事を怖がってるみたいだ・・・。

「悪魔・・・」

呟くような声。

「アイツは・・・悪魔だ。」

チアキは頭を下げ、白い指で赤い唇を押さえ、震えていた。

あれ?誰かに似てる・・・。

「どうして?」

「誰にも言わないでもらいたいんだけど・・・大丈夫?」

「ああ」

できればな。

「あいつは・・・人の命も・・・何も・・・ゴミとしか思って無い。」

「・・・」

俺は黙りこんだ。

「2組に白木美香子っているだろ?」

黙って頷く。

白木の名前はすぐに覚えた。

なぜなら嫌いなタイプだから。

俺は、ヤツのあの、人を小ばかにしたような態度や仕草にいつも人知れず腹を立てている。

「永久とアイツ、一年の頃付き合ったんだ。」

「マジで!?」

「しずかに!!」

「・・・ハイ」

チアキはその話をしてからはじめて俺の目を見た。

ひどくおどおどしていた。

「去年の多分梅雨の時期で・・・・。雨は無かったと思う。

永久は公園のベンチにひとりで座っていたんだ。」

「普通じゃん」

「ところがどっこい・・・。アイツは俺が名前を呼んでも気付かないままずっと自分の手を見てたんだ。」

この口ぶりはまるで怪談話だ。

オチは一体何だ!?

「アイツは虚ろな目をしていて。笑ってたんだ。俺はヤツの手を見た。何があったと思う?」

「さあ・・・」

「血だよ・・・。真っ赤な。まだ新しい血。手の平から袖口までべっとり。」

チアキは俺に助けを求めるかのような目をして笑っていた。

両手は自分を抱くようにして、本棚にもたれてながら。

「俺に気付いた永久は俺に目を向けた。・・・とにかく怖かった。あの冷たい目が・・・。

そして俺にこう言った。『罰を与えた』ってね。

次の日、白木は学校を休んだ。腹を刺されたんだってさ。

だけど誰が犯人だかは彼女、震えるだけで決して言わなかったんだ」

「・・・」

俺はだまりこくってチアキを見ていた。

「言わないで・・・言ったら殺される・・・・」

「言わないよ。」

俺はチアキのひんやりとした右手を包み込むように握った。

「誰にも言わなかったのか?」

俺の問いにヤツは首を縦に振る。

「怖かっただろ?あ、ところでチアキの苗字って何?」

場の空気を全く考慮してないような間の抜けた質問にチアキの顔がゆるむ。

「チアキ」

「へー苗字と名前が一緒なの?珍しいね。」

「『千秋』が苗字。下の名前は『爛』。ミズキ君は?」

「『田村ミズキ』。」

「あぁ。ミズキって・・・・下の名前だったんだ。じゃあ田村君だ。」

「いいよ。ミズキで。皆そう呼んでるから。つーか呼び捨ての方がいいなぁ」

その後少し無駄話をした後に俺は電車に、千秋は自転車に乗って帰った。



罰・・・かぁ。

俺はたった2両の電車にゆられながら一人思考を張り巡らせた。

永久がそんな事言うはずが無い。そう。永久なら・・・。だけど・・・

『負け犬君』

トワなら・・・言いかねないかもしれない。

そうだ。トワだ。

冷たい目も人を刺す事だってアイツには容易い筈だ。

トワって・・・・悪魔なのかな??

とんでもねぇヤツだけど俺はアイツを憎めないのは何で?



「やけになるなよ」



誰にでもなく俺は呟いた。

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