あれから一週間。

千秋の言った事はそれなりに気にかけてはいたものの決意は少しも揺るがなかった。

永久を仲間にしたい。



「永久!おはよ〜」

廊下ですれ違った永久は俺にそっぽを向いてそのまま三組へと走っていった。

「ちぇっ・・・。」

難しいなぁ。近頃の子って。



「修二、おはよっ」

「おはよー」

「おはよう」

二組のドアを開けて最初に目に入ったのは修二の隣に居る背の高いメガネ君だった。

コイツ、永久といつも一緒に居るヤツじゃん。

「この人は藤原くん。ミズキ、どうせ名前覚えて無いでしょ」

「どうも」

俺は二週間同じ教室で暮らした筈のメガネ君に一礼する。

こんなヤツ居たっけ??

「なあ修二。」

「何?」

「俺、コイツに話したい事があるんだけどさ・・・」

「そんなのは本人に言ってよ。ね、藤原君」

「俺に?」

藤原は首をかしげた。

「うん。だから放課後空けといてくんない?おごるから。そんじゃ。」

俺はふたりに手を振り、コーヒーを買いにひとりで記念館の自販機へ向かった。

いつも誰かと群れてるわけじゃないんだぜ?

たまには一匹狼にもなるんだ。

ミズキ七変化



「おっ」

ここにも居た。

三分間のロンリーウルフが。

「あ、千秋ちゃんだ☆」

「おはよ・・・」

クセ毛の脱色した髪を白い指でかき上げ、彼の大きな目は俺に向けられた。

睫毛が多くて女顔。

あ、コイツ・・・俺のカノジョ・・・美咲に似てるんだ・・・。

なんて気付いたのもつかの間。

「誰が千秋ちゃんだっつの!!」

「いででででで」

千秋ちゃんに頬をつねられた。

懐かしいなぁ・・・美咲にもよくやられたっけ。あぁ・・・なんか・・・

「幸せ・・・。千秋ちゃん、もっと・・・」

「変態?!」

「あのさ、永久の事なんだけど・・・。」

ロビーの薄汚れた椅子にふたりで腰掛け、

なんとなく沈んでしまった空気と目のやり場に困りながらも俺は言葉を吐いた。

「何?」

「千秋ちゃんは・・・永久の事、好きなの?」

「怖い。好きとか嫌いとか。そんなんじゃなくて怖い・・・。ミズキは?」

「俺も・・・怖いとは思うけど・・・むしろ親近感沸いちゃうんだよなぁ・・・。」

「あのなぁ!俺が怖いって言ってるのは普段の永久じゃなくて・・・。」

「わかってるよ」

俺は千秋ちゃんの唇を押さえる。

コイツが女だったら今ので絶対落ちるな。なんちって。

「俺も見た。その永久を。」

正確には『トワ』。アクセントが後ろにつくんだ。苗字みたい。

ちなみに『永久』のアクセントは前。

親切な俺から読者へのサービスだ。感謝の念をこめたね。

「・・・マジで・・・?」

千秋ちゃんは相当驚いたのか顔を硬直させた。

「マジだよ。もちろんこのことも口外すんなよ。」

俺はにっこりと笑い、凍りついた千秋ちゃんを置き去りについて教室に戻った。

もちろん、俺はトワに恐怖を感じる千秋ちゃんを異質だなんて思ってはいない。

むしろこうして親近感とか沸いちゃってる俺のほうが異常なんだ。

あんな全てを拒絶した目を持ってる人間を見て「懐かしい」なんて思ってるなんて・・・

俺も大馬鹿だ。

ま、そんな自分が大好きなんだけどね。

「用って?」

「ちょっと話したい事があるんだ。ごめんな。もちろん、おごりだぜ」

放課後、駅前のうどん屋。

今日の俺は永久のダチのメガネ君(男)と“うどん屋デート”なのだ。

「えっと・・・藤木君?」

「藤原だよ。俺、卑怯じゃないし」

「そうそう。それ、藤本君は・・・」

「藤原だっつーの!俺アイドルじゃないしミキじゃなくて晶だし・・・」

「その北斗君は・・・」

「人がノってるからって便乗すんな!」

「はいはい。ごめんね。藤原君。なかなかつまんなかったけど・・・」

「お前もな!」

見た目と違って案外くだけたヤツだ。

学校じゃ大人しいのに・・・。

オフになると、どんどんテンションが落ちてく千秋や亜紀とは正反対だ。

あ、あいつらはただの人見知りか。

「あのさ。そんでさ・・・永久の事なんだけどさ・・・。」

きょとんとした顔をする藤原。

「?・・・アイツ、何かやらかした??」

「え?別に・・・ただ永久君と仲良くなりたくってさぁ。・・・永久君って・・・どんな人なのかなーって。」

「田村・・・」

「ハイっ!えっ?何でございましょう!!」

ヤツの鏡みたいな目につい、たじろいでしまう嘘つきな俺。

「千秋から何か聞いた?」

「ええええ?!べべべべ別に・・・。スンマセン!嘘です!聞きました!!スンマセン!」

一回目は目の前の藤原に。二回目は千秋ちゃんに約束を破った事に謝った。

「俺も見た」

「へ?」

予想外に情け無い声が出る。

「千秋と同じ日・・・アイツよりちょっと後に・・・。」

俺は揚げ玉を掬っていたお玉を置き、

藤原の、少し何かを考えているような目をじっと見つめた。

「アイツは・・・永久は笑っていた・・・。真っ赤に染まった手を庇いながら・ね。

人は壊れると・・・こんな姿をするのかな・・・なんて思った。」

「え?永久と藤原と千秋ちゃんって近所住みだったの?」

「いんや。ただ永久のモトカノと俺が近所なだけ。

千秋はその近くのツタヤにCD返しに行ってたらしいよ。」

「で、白木はどうなったの?」

「さぁ。」

「じゃぁさ、そん時永久と会話したりはしなかったの?」

「・・・しなかった。だけど永久は一瞬だけ俺の顔を見て悲しそうな顔をしたんだ。」

「・・・ふーん・・・。藤原は永久の事、どう思ってんの?」

「誰よりも大事なダチ・・・かな?あんな事があって尚更、永久をフォローしてあげたいって思ったんだ。

普段の頼りない永久も・・・一度だけ見た壊れた永久も・・・永久ならどんな永久でも・・・。」

立派なヤツだ。

きっと成績とかもいいんだろうな・・・・。

「あ、そうだ。永久って何か欲しがってるモンとか無いの?」

「そーだなぁ・・・。グッチの香水とかかな?あ、あとはアディダスの靴!限定のヤツ。」

「何それ!!!」

俺は机を叩いて立ち上がる。

そんなんどっちも買ったら俺の小遣いの三か月分だ。

物で釣ろうって思ったけど・・・やっぱダメなのかな・・・。

「まぁ・・・アイツ、中学の頃はとっぽかったらしいかんな。」

「マジでぇ?!」

「うん。マジで。」

意外すぎて何が何だかだ。

永久は掘れば掘るほどわからない。

「田村・・・。」

「ん?」

「何しても別に勝手だけど永久を危険な目だけには遭わせないでくれよな。」

「う。。。ま、まぁ・・・。」

まさかコイツ・・・俺のこと・・・影師のこと・・・知ってる?

なんて・・・んなわけ無いよな。

それにしてもなんだか不思議なヤツだったなぁ。

俺は藤原と別れを告げてすっかり暗くなったM駅のホームでたった一人で電車を待っていた。

永久を仲間にするには・・・

物で釣る・・・いい考えだと思ったのにな・・・汚いけどこれが一番効くのに・・・

学ランのポケットに入っている小銭をチャラチャラといじっていると

はたといい考えが浮かんだ。

「困ったときはア○フル!そして渡部修二!!」

ケータイを取り出し、修二に電話をする。

『何・・・ミズキ・・・もう12時なんですけど・・・』

「修二!金くれ!!」

『は?何で』 

修二は呆れと怒りを電波に乗せる。

「永久!永久を物で釣るんだ!!」

『何それ!原始的!!』

「だけど!やってみる価値、あんだろ?」

『まぁ別にいいけど・・・。何円出せばいい?』

「任せるよ。おやすみ。マイハニー」

『キモイ』

ブチッ

強引に電話を切られても俺の心は飛んでいくほど舞い上がっていた。

「よっしゃー!!コレで永久を仲間にできる!!」

俺はひとりきりのホームで踊り狂った。

暗いから大丈夫。

暗くてよかった!

人生ってすばらしい!!



明日から忙しくなりそうだ。

NEXT