<sideξ 田村聖尋樹>
「はい、軍資金。」
修二は狭いトイレで声が響かないよう小声でそう言い、封筒を俺の学ランのポケットに滑らせる。
「サンキュッ☆」
「死語じゃん。次それ言ったら絶交な。」
「えー。バリバリ生きてるよ。」
俺は鏡を見た。
うん。俺はいつも通りカッコイイ。
「それにしてもミズキ、普通の人を巻き込むのって嫌いじゃなかったっけ?」
「ああ。アイツは例外。っつーか俺達のほうが危ないかも・・・」
「は?」
修二は不思議そうな顔をしていた。
放課後のチャイムが鳴る。
「修二」
廊下で少し前を歩いている修二に言う。
「何?」
「軍資金の事なんだけどさ」
「うん」
「何円入れた?封筒折り曲がんないんだけど・・・」
「そうだろうね。」
「・・・何円入れた?」
「60万。」
「・・・」
俺は言葉を失った。
駄目だ。スケールが違う。
校門を出てすぐに亜紀嬢にお電話をした。
俺は左手でハンドルを押さえながらチャリにまたがる。
「もしもしー亜紀?」
『何だよ』
「今どこ?何してる??」
『マルイで買い物』
「何円持ってる?」
『六百円だけど?あ、貸さないかんね。』
俺の口からはついついため息が漏れる。
資本主義ってのはこれだから嫌だ。
「悪いんだけど頼まれごとしてくんない?あ、今誰か居る?」
『千葉ちゃん』
「じゃあ20分後にマルイの正面の入り口で待ってろ。もちろん一人でな!
渡すもんがあるから。」
『はいはい』
「ハイは一回!そんじゃ、また」
俺はケータイを切り、アゴで畳んでアディダスのカバンにブチ込んだ。
「さ、行くか!あ、なぁ修二」
「ん?」
「ちょっと一仕事してもらっちゃってもいい?」
「構いませんけど?」
まってやがれよ高橋永久!今夜はお前のために最高のパーティーを開いてやるかんな
<side刀@高橋永久>
駅前通りに足を運ぶのは久々だ。
僕は今、藤原と切れたラケットのガットを直しに駅前のスポーツ用品店に居る
「お前も色々大変だな。まるでパシリじゃん」
藤原の言うとおり。僕は権力者にいいように利用されている。
僕のカバンに無理やり差し込まれているラケットは田渕のラケットなのだ。
「別にいいよ。少し靴も見たかったし。」
「・・・」
藤原は少しの間黙り込む。そして
「なあ、永久・・・これ・・・。」
藤原はラケットの先を指して神妙な顔つきをする。
「何?」
「これ・・・血じゃないか?」
ほんの少しだけだけど血がこびりついていた。
「ホントだ・・・」
「アイツ、キレて誰か殴ったのかな?」
「さあ・・・」
僕は自分の頭を掻く。
「って・・・」
瘡蓋がはがれたらしい。
指先には僕の真っ赤な血がついていた。
そういえばシャンプーする度にやっちゃうんだよな。
あれ?この傷、いつつけたんだっけ・・・。
<sideξ 田村聖尋樹>
「どちら様でしょうか?」
「あたしだよ」
女は堰を切らしたかのように俺をすごい様相で睨みつける。
マスカラ睫毛に不自然に白い肌。
全く見覚えが無い。
「だから誰?」
「あ・た・し・だっつーの!!」
妙に高くてデカイ声だ。
この声自体はどっかで聞いたことがある・・・ような。
「あ、オレオレ詐欺?」
「・・・バカ・・・」
それにしても遅いぞ亜紀・・・。
ったく。どこで油売ってんだよ。
つーか最近、亜紀自体を学校で見ていない。
ダチの小池や千葉とトラブルしちゃってるらしいから会議にも来て無いし。
ついに不登校か?!
「秋山〜」
久々に見る千葉が特徴的な内股走りでこっちにやってくる。
「もうちょっと待ってて!今行くから。」
何故か応答したのはあの女。
“秋山”はロバートのアレに似ている亜紀の愛称の筈だ。
・・・まさか・・・
「や、山崎亜紀?!」
俺は思わずヒーと奇声をあげた。
「今頃気付いたのかよ!」
「やっべー道理で最近見ないと思った。まさかギャルになってるなんて・・・」
人は変わるもんだ。
まあ前より女っぽくはなったかな?
「ギャルじゃねーよ!」
「俺の好みじゃない女は皆ギャルだ!」
「そしたら前のあたしは何なの!!」
「女じゃない」
「キィィィィーーー」
亜紀は俺の腕を爪を立ててギュッと握る。
「いでででででっやめろっつの!止めてください!それと千葉をどっかにやってくれ!
頼むから!お願いしますっ!!」
「ハイハーイ」
亜紀は俺達の不思議な組み合わせにびっくり仰天している千葉をなだめにスタスタと歩いていった。
女って・・・怖い・・・。
「千葉ちゃん、気付いちゃったみたいだよ?あたしたちの関係に。」
顔は違ってもやっぱり中身は亜紀だ。
「バカ!誤解されるような事言うんじゃないよっ!」
俺は亜紀の腕を振り払う。
「ところで最近。どんなかんじ?」
「別に・・・」
亜紀はツンと横を向く。
良好・・・では無いと。
こいつもこいつで苦労してんだなぁ・・・。
「あ、これ。渡すもん。」
俺は一万円札を封筒から二枚とって亜紀のちいさな手のひらに乗せる。
「これでグッチの男物の香水買ってきて。」
「包装は?」
「任せるよ。そんじゃーな。」
俺は走ってマイカーを置いた駐輪場へと向かった。
<side刀@高橋永久>
藤原と別れて僕は一人になった。
ガットはまだ張り終わらないらしい。
いい加減に飽きてきたので僕は外に出た。
「?」
僕とすれ違う自転車のS高生。
見慣れた背中。
田村聖尋樹?
でもどうしてそんなに急いでるんだろう・・・。
<sideξ 田村聖尋樹>
「アディダスの靴ください!!」
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