<side刀@高橋永久>
「つかまえた」
改札に入ろうとした僕を掴んだ華奢な白い腕。
僕は目を上げた。
長いまつげに艶のある白い肌。
女性的な笑顔を浮かべる唇のすぐそばの黶。
彼は・・・
「・・・渡辺・・・くん?」
「渡部。渡部修二だよ。」
渡部修二。
ミズキ君と仲のいい、だくさんの男子の中でも最も彼と親しい人。
「今から暇かな?」
「べつに・・・」
「そう」
渡部君はにっこりと微笑む。
天使のような笑顔だ。
彼からはどことなく中性的な魅力が漂っている。
「じゃ、来て」
「え?」
意外にも力のある渡部君にグイッと引っ張られる。
「いだだだだ。渡部君?え?離してよ!」
「だーめ」
一体僕はどこに連れていかれるのだろうか。
ひょっとして・・・大ピンチ?
<sideξ 田村聖尋樹>
「無い〜?!もう三軒目なのに!!」
「そうは言いましても・・・。人気なんですよ。このデザイン。
あ、ご注文なさるのはどうです?って・・・あの、お客様?」
「だめなんだよ!!今すぐじゃなきゃ。そんじゃ。あんがとな」
俺は自動ドアを走ってくぐり、チャリに飛び乗り、次の店へと向かった。
<side刀@高橋永久>
「これって・・・拉致?」
気付けばカラオケボックスの中。
僕は机の脚に、どこで買ったか解らないロープで
グルグルと縛り付けられ、身動きが取れなくなっていた。
「よし。完成☆」
渡部君は両手をパンパンと払いながらにっこりと笑う。
「何・・・を・・・したいん・・・ですか?」
「ん??“いいこと”だよ」
いいこと?!
その中性的な魅力はやっぱりそこからきていたのか?!
だとしたら僕は本当に大ピンチだ。
「やだ!助けて!!」
僕はジタバタと胴体を揺らす。
それをみて渡部君は怪しい笑みを浮かべるばかりだ。
「ぎゃー!ひぃぃー!!助けてぇぇぇぇぇ〜〜〜!!」
僕は精一杯叫んだ。
そのとき。
バタッ
個室の扉が開く。
「修ちゃーん。ミズキー。かってきたよー☆って・・・何やってんの?!」
入ってきたのはうちの学校の制服を着た化粧の濃い小柄な女だった。
「だ、誰だか知らないけど助けて!」
僕は泣きそうな顔をして彼女の目を見た。
しかし
「なに?何のプレイ?面白ーいvvきゃー☆」
パシャ
写メを撮られた。
あろうことかこの謎の女は変態だったのだ。
それにしてもこの人、どこかで見たような・・・
「亜紀。よくやった!」
「うへへ」
だめだ。
話の通じるやつがいない。
僕はどうなるんだ?!
だ、誰か本当の本当に助けて!!
そう心で叫んだそのとき。
バタン
乱暴にドアが開けられる。
「ハァハァ」
「ミズキ君?」
「おう。待たせたな。」
ミズキ君だ。大分息切れしている。
もしかして・・・僕のことを助けにきてくれたとか?
「オイ。修二。水くれ。マジ疲れた・・・。」
ミズキ君はソファにでんと腰掛ける。
あれ?おかしいな・・・。
僕の縄をほどいてくれる気配が一向に無い。
それどころか。大学ノート大の箱を僕の目の前に置く。
「亜紀。お前も出せ。」
「へい!」
女は箱の上に丸井の袋に包まれた何かを置く。
「永久。お前。コレ欲しくない?」
「?」
ミズキ君がニヤリと笑う。
「何が入ってるの?」
「アディダスの靴とグッチの香水。」
「え?」
「欲しくない?」
「・・・本物?」
「もちろん。さっきチャリ走らせて買ってきたやつだ。」
彼は箱の中身を取り出してホレと僕に見せる。
どっちものどから手が出るくらい欲しい。
「・・・欲しい・・・」
「じゃあ。いまから俺の出す条件を飲んで。」
「何?」
「お前が欲しい。」
ブッ
僕は吹きだした。
「あげないよ!」
「そうじゃなくて。お前に俺達の仕事を手伝って欲しいんだ。」
ミズキ君は信じられないような話を僕に過剰な演技を交えて話してくれた。
「僕にその“影師”になれって?」
「そう。」
と渡部君。
「永久君。君には才能があるんだ。だから。
僕達は君の力がぜひとも欲しい!君が必要なんだ!!!」
彼は僕の肩に力強く手を置く。
「そんな事言われたって・・・。」
「そう。欲しくないんだ。」
渡部君はさびしそうに笑い、靴と袋を僕から遠ざける。
「待って!」
「影師になって。そしてらあげるよ」
彼のさびうしそうな笑みについうんと言いそうになる。
「あ。そうそう。俺らに協力しないってんならお前をそのまま置いてかえるかんな。」
「この写真も皆に送っちゃうぞ!」
ミズキ君と女は僕を見て楽しそうに笑う。
ここまできたらもうただの脅しだ。
どうしよう・・・。
面倒なことになったぞ・・・。
そんな時。
ドーン!
爆音が鳴り響き、僕たちは一斉に音の方向へ顔を向けた。
「『影』だ!」
ミズキ君が言う。
「ミズキ、山崎。ケータイは?」
渡部君がミズキ君と女の顔をかわるがわるに見ながら言う。
「カラオケだからうるさくて・・・」
「悪ぃ」
「お前ら!あれだけケータイには気をつけろって言っただろ!」
いつも温和な渡部君が怒っているところを見るのはかなり珍しい。
「そーゆー修二はどうしたんだよ。いつも真っ先に気付くじゃん」
スネたミズキ君が言う。
「彼女の家においてきた・・・。」
「なんだそれ!超性質悪いじゃん!」
「死んじゃえ!」
「あーあーあーあーもうウルサイ!!」
渡部君は二人の大ブーイングを耳を塞いでさえぎり、
僕の前にかがみ込む。
「一緒に来て。君の力を僕に見せてよ。」
これじゃあまるて女の子を口説いてるみたいだ。
・・・口説いているのには変わり無いみたいだけど。
僕は三人に拘束されたまま部屋を出た。
<sideξ 田村聖尋樹>
「こっちだ!」
レーダー無しで『影』を探すなんて久々だ。
このカラオケ屋の中に居るのはわかってるんだけどなぁ・・・。
あんなに音が響くのにどこに『影』が居るかわからない。
ちょっと前の俺だったらすぐにわかったのになぁ・・・。
歳だね。もう。あーヤダヤダ。
「わぁっ」
永久が悲鳴を上げる。
「助けてぇぇぇ」
ヤツは回り込まれた大型の『影』に首根っこを掴まれじたばたとしていた。
「永久君!手をかざして!!」
修二に言われた通りに、永久は宙に手のひらをかざした。
するとまばゆい光が彼の手のひらの中に集まり、
それが細長くなり、光がすっと消え、そのかわりに刀が彼の手に握られていた。
「それで斬って!」
永久は戸惑いつつも頷き、『影』の腕に思い切り刀を振り下ろした。
ズザザザッ
『影』の腕が落ちる。
「やるじゃん・・・」
ぼそりとつぶやく亜紀。
「よし!あとは俺様が・・・」
俺は銃をくるりと回し、持ち前の華麗なる射撃能力で『影』の胸を一発ぶち抜いた。
<side刀@高橋永久>
「永久君。ありがとう」
僕は箱を抱えて渡部君と一緒に駅の改札をくぐった。
もうこうなった以上責任を放棄することはできないと悟ったからだ。
僕には本当に何かの能力があったみたいだ。
そういえば今日と同じような場面をどこかで見た気がする。
「夢?」
「どうしたの?永久君」
「あ、別に・・・」
そう。夢だ。
それにしてもあれほどしつこく、毎日のように見ていた夢を今まですっかり忘れてたんだろうか。
<sideξ 田村聖尋樹>
「何か違うんだよなぁ・・・。」
「いいじゃん。さっきのでも充分強いよ。」
バスターミナルに腰掛ける俺と亜紀。
「とにかく違うんだよ!この間の方が断然動きが良かった!」
「ふぅーん」
「・・・俺、もっかいトワに会いたい・・・。」
少し冷たい風が吹く。
バスはまだまだ来ない。
トワが今度俺の目の前に現れるのはいつなんだろう。
ただの思い込みなのか、野生のカンってヤツなのか、そう遠くは無いと思うんだ。
風が俺の体中を駆け巡る。
楽しみなんだな。きっと
このとき、俺は気付く事ができなかったのだ。
大切な事に。
あの言葉の意味を・・・。
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