<sideξ 田村聖尋樹>



人は恋焦がれるとおかしくなる。

前にも恋をした影の話をした。

だけど俺は再び恋のパワーに驚かされる事になるなんてあの時は考えもしなかった。



今回は恋をした変態の話。

変態とはもちろん、皆様おなじみの山崎亜紀嬢のことだ。

亜紀は必死で恋をしていた。

自分で作った運命の渦に逆らいながらも。

恋をするヤツの姿は正直痛かったけど、ほんのちょびっとカッコよかった気がする。

なんちって



#3 声



「マジヤバイ」

この間の数倍もの厚化粧をした亜紀が言う。

ここまで凄いとヤツの本当の顔がわからなくなりそうだ。

自分でも忘れちまったんじゃねーのか?

見失われるアイデンティティ。

「何が?」

「あの子!!あの子だよ!!もうマジありえないくらい可愛いし!」

「誰?あ、わかった。千秋ちゃんだ。」

全くの直感だった。

いや、でも前々から千秋ちゃんと亜紀は相性がいいって思ってたんだよね。

それに千秋ちゃんって唇がたっぷりしてて亜紀好みの顔だし。

「なんで」

亜紀のあからさまに不満そうなどす低い声。

「どこがいいの?あの白カラスの」

白カラス?!

「あたしはあの世田谷区の白カラスなんかよりもーーーーっとステキな人が好きなの!」

しかも世田谷区?!

まさかこんな女に世田谷区の白カラス扱いされてるなんて千秋ちゃんは夢にも思っていないだろう。

ナム〜

「じゃあ似てる芸能人は?」

「緒方拳」

「じーちゃんじゃんかよ!ひょっとして・・・教員?」

「タメ」

ダメだ。ますますわからん。

ってゆーか千秋ちゃん以外ありえねぇよ。マジで。

「え?イニシャルは?」

「苗字がT」

「えええ?俺?!俺なの?!田村のT??」

「黙れ土瓶」

俺土瓶なの?!こいつにとっては土瓶だったの?!

あんとき(渦#2)もあんとき(渦#4)もあんとき(夢#1)も俺はあいつにとって土瓶だったのかよ!!

世田谷区の白カラス以下・・・。

「え?だれだれ??俺の知ってるやつなの?」

「ミズキ、あの子のこと知ってるかなぁ・・・。」

「誰だよ」

ひょっとして他校?

「高橋・・・」

「ああ。高橋えりかかぁ。」

我らが2組には高橋が二人居る。

高橋えりかともう一人・・・

「永久・・・の方なんですけど?」

「はぁ?!」

大穴だ。

本命、千秋爛。対抗、田村聖尋樹。

「いやーなんつーか・・・」

「何?」

「やめとけ」

「なんで」

あからさまに不機嫌な亜紀。

こいつは不機嫌になると声のトーンがドンと落ちる。

「お前以上にどんくさい。」

「またまた〜」

全く信じてない。

恋はなんとかだってよく言うもんだ。

「それに腹黒いし金掛かるしケチだし。さらに!去年・・・」

俺は口を閉じた。

白木のことや千秋との確執を口外することはできない。

コレを言ったら千秋や藤原を裏切る事になるからだ。



<side刀@高橋永久>



「永久君。悪いんだけどゴミ、捨ててきてもらえる?」

「え?あ、うん」

クラスメイトの石見遥が僕にゴミ袋を手渡す。

きらきらとした目にを前にして僕の心臓がバクバク言う。

手が触れる。

あったかい。幸せ。



「ふーじーわーらっゴミ捨て行こっ」

「キモッ」

藤原はベタベタとじゃれ付く僕を迷惑そうに引き剥がす。

「どうした?キャラ違うぞ・・・」

「そう?」

石見さんに頼まれごとされちゃった。

僕は空に舞い上がりそうなほど体中が喜びに満ち溢れていた。

石見遥は僕の想い人。

かわいい顔とは裏腹に実は男勝りでリーダー格の彼女のギャップが愛おしい。



「でさぁ。石見ぃ〜」

「そうそう。それそれ〜」



石見さんと山崎さんが肩を並べて校門を歩いているのが目に入る。

あのふたり、仲が良かったんだ・・・。

僕はぽかんと口を開けてふたりの背中を追っていた。



<sideξ 田村聖尋樹>



「永久と仲良くなった?」

「ぼちぼちかなぁ・・・」

記念館の自販機の前でまたまた千秋ちゃんと落ち合ってしまった。

最近、ほぼ毎日こんなカンジで顔を合わせている。

「ねぇねぇ。千秋ちゃ〜ん。山崎のことどう思う〜?」

「えー微妙」

「マジでぇ?!」

「面白いとは思うけど・・・絶対深くは関わりたくない。」

「そっか」

二人はな〜んかいい感じだと思ったんだけどなぁ。

恋愛キューピッドミズキ。選択ミス



<side刀@高橋永久>



「香水・・・新しくした?」

夕焼けに教室が染まる。

藤原が僕の隣に腰掛ける。

「気付いた?」

「うん」

藤原は何故かやけに辛そうに笑う。

「永久」

「ん?」

「危険な事は絶対にするなよ」

「うん」

彼の瞳には僕がしっかりと映されていた。



<sideξ 田村聖尋樹>



「協力してやるよ。」

俺はベランダにひとり風に吹かれながらケータイに向かっていった。

『は?』

亜紀の高い声。

イタリア語の曲がバックに流れている。

サイゼにでも居るのか?

「高橋君」

『ああ・・・ってええ?!マジで?!』

「映画、行きたくない?」

『行きたい!超行きたい!!』

「よし決定!じゃ、今度の日曜。楽しみに待ってろよ!!」

さーて。一仕事一仕事。

他人の恋ってなんて楽しいんだろう。



「映画?」

「おう、行かないか?」

「別にいいけど・・・。」

学校の帰り道。

俺は永久に映画の件を持ちかけた。

亜紀一人じゃ心細いから俺と修二もついていくって事になったんだ。

当たり前だ。

こんな面白いイベントを。この俺様が。

大人しく陰で温かく見守るなんてバカな事するはずがない。

それに俺だってこうして永久を誘ってやってるんだし亜紀に反論する権利は無い。

世の中ギブアンドテイク。

これ常識。

「じゃ、あしたの日曜な。そんじゃまたな」

そういった後、俺達は別々のホームをくぐった。



<side刀@高橋永久>



「映画かぁ・・・。」

ミズキ君たちの仲間になってからは毎日大変だったけど決して辛いことばかりではなかった。

ミズキ君はウザくて、渡部君もウザくて、山崎さんに到っては死ぬほどウザかったけど

何故だか憎めなかった。

3人ともアクがあるけど決して悪い人ではない。

藤原然り千秋然り。考えてみれば僕はまだ、周りの人に恵まれている方なのかもしれない。



何見よっかな・・・



僕は明日を少しだけ楽しみに思いながら電気を消して布団に潜った。





少し寒気を感じて、恐る恐る目を開いた。

気付けば僕は薄暗い空間の瑠璃色に輝く湖の上に立っていた。

ひらひらと舞う銀の蝶。

「久しぶり。」

聞き覚えの有る声。

「あなたは・・・」

前に夢で会った、あの女だった。

「へえ。覚えてたんだ。あ、そっか。思い出したのか。」

「?」

「厄介だなー・・・。アイツの能力は。」

「あの・・・」

「永久。もうじきあんたの周りの人間に変化が訪れる。ふたり。いい?

検討を祈ってるから。」

「ふたり・・・?誰?」

「さあ。自分で考えな。」

女は口を緩めた。



「ちょ、教えて・・・ってアレ?」

僕は布団から起き上がる。

「夢かよ・・・。」

頭を抱えた。

「そうだ。時間は?」

今日は皆との映画の日。絶対遅刻なんて・・・

時計を手に取る。

「げ」

遅刻・・・確実みたいだ。


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