美しいものになりたい

例えばおれ達を照らす太陽のように

例えば落ちゆく木の葉のように



なれないのならば

いつまでもこうして隅に溜まるゴミのように生きるていくのならば




もはやおれに生きる価値などは残されていない



モノローグ罰ゲーム



「せーのっ」

六つのたこ焼きは一斉に6人の愚者の口の中に入れられた。



そのなかで、ひときわ唇が赤い男の大口に入ったたこ焼きは残念ながら偽者だった。

なぜならばこれはただの軽食ではなくゲームだからだ。

『究極の屈辱』を賭けたゲーム。

もし偽のたこ焼きを口に含んだのならば、屈辱の罰ゲームが待っている。



だからだ。唇の赤い男。つまりおれはこれから罰ゲームを受けることが次の一言を発することにより決まってしまうのだ。

その一言とは…



「かっらあああああああっ!」

「罰ゲームは千秋に決定!」

「辛い!ホント辛い。ヤバイ。わさびの量多いんじゃねーの?翼」

「いや、きけよ」田渕貴史は不機嫌に顔を歪める。

応えてはいけない。

シカトだ。

シカト。

さもなければ屈辱が待っている。



大体こんな辛いもの食わされておまけに罰ゲームまで受けるなんて見当違いだ。

むしろおれ以外全員が罰ゲームを受ければいい。



「やべっ吐きそう…翼!バケツ」

「はい」

「待て」

鈴木翼が差し出したバケツを鳴海一也が押し戻す。

「少し往生際が悪いぞ。千秋。」

「そうだそうだー!」

鳴海に便乗して柚木成が野次を飛ばす。

「罰ゲームを受けるって認めるならこれを貸してやる。それとも飲み込むか?」

「無理無理!絶対無理!」

おれはトイレに駆け込もうと椅子から立ち上がる。

「まてよ」

ガシッ

加宮大和が離さないと言わんばかりにおれのワイシャツの下に着たダサイTシャツを掴む。

「どうする?」

にっこりと笑う5人。

うっわあ…絶交してえ…。

「……バケツ、ください」

どうせ屈辱の罰ゲームだなんて言っても名前で呼ばれる程度だろう。



ランちゃん、ラン、ランラン



…いやだああああ

小さい頃のあんなこと、こんなこと、色んなトラウマが鮮明によみがえってくる。



父さん母さんどうして爛なんて名前付けたんですか?

漢字はともかく読みが。読みが問題なんだよ!



「それじゃ発表します!千秋ちゃんの罰ゲームは…」

ごくりと唾を飲み込む。

ランちゃんだけはやめて下さい。

お願いです。

それ以外なら何でもしますから…



「山崎亜紀とデート。」

げ…。

どうやらおれはランちゃんと呼ばれるよりも最悪な罰をひとつ忘れていたみたいだ。



田渕の声にしばらくの間全員が凍り付いた。

そうだ。こいつがこの下らない企画の発案者なのだ。

「流石にそれはかわいそうだろ」

と成。

「ああ。たかがたこ焼きでそこまでやるのは…」

と鳴海。

「山崎はさすがに…なあ」

と大和

「山崎さんはー…千秋にはちょっと早いよー」

と翼。

皆、勝手な言い草だけどおれのこと思ってくれてるんだ…。

ランたん感激!

やべっ感動のあまり自分からランたんとかいっちまったし。

「じゃあお前ら千秋とかわってデートするか?」

おい田渕!余計なこと言うなや!

「「「「頑張れ千秋」」」」





………はい…。



おれなんかじゃ田渕のような権力者には勝てないんだ。

知ってるよ。ああ。知ってたよ。





ここで説明しとかなきゃいけない。

山崎亜紀とは今までおれが出会ってきた人のなかで最低の奴だ。

人前ですぐ泣く。

人にすぐに媚びる。

空気が読めない。

見え透いた嘘をすぐにつく。

まるで人間という生き物の短所ばかりを集めたような女だと思う。



別に美女ならいい。



しかし奴はお世辞にもかわいいとは言えない。

いや、もうブスと断言できる。



当然ながらおれは奴が嫌いだった。

ただの嫌いではない。

おれは彼女を心の中で社会不適応者や人間のゴミと呼んでいた。

ただ、しかし醜く汚いおれもそんな彼女と同じく短所の集合体でありゴミであることを自覚はしていた。

そう。世界中で彼女とおれだけ。



そんな悲惨な状況を抜け出すためにも、

おれは「美しいもの」になりたかったのだ。



しばらくして悪友達と俺は真っ暗になった九月の空のぼんやりと鈍く輝く外へと出た。

しかし彼らは空を全く見ずに俺だけを凝視している。

空はあんなにも美しいというのに。

いや。美しくなんてない。

こんなにも曖昧に輝くのならば光るのをやめてしまえばよい。

完全なる闇の方がまだ美しい。



おれも。この病み切った現代社会を何かを探して歩き回ることを止めにした方がいいのかもしれない。

どうせ何も掴めやしないのだから。

おれは美しくなる権利を持たない単なるごみなのだから。


NEXT